精神科医のイメージと能力に関する調査報告【続報】

やきつべの径診療所の夏苅郁子先生たちが精神神経学雑誌に論文を掲載されてから5年が経ちました。

夏苅郁子ほか」精神科担当医の診察態度」を患者・家族はどのように評価しているか―約6,000人の調査結果とそれに基づく提言。精神神経学雑誌 120: 868-886, 2018
抄録はこちらからご覧になれます。
https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=120&year=2018&mag=0&number=10&start=868

この調査は、当時の精神科担当医の診察態度・コミュニケーション能力について,治療場面における患者・家族としての立場からの評価を調査したもので、無記名自記式質問票18,000通を全国の患者・家族協力団体へ郵送し、有効回答6,202人(患者本人2,683人,家族3,519人)でした。医師を選択する基準は「適切な薬を処方する能力」が本人・家族ともに最も多く(本人65.4%,家族71.0%),人柄,コミュニケーション能力,行動力が次に続きました。診察態度の評価(本人)では「清潔な身だしなみである」「きちんと顔を見て,目を見て話をしてくれる」が現状では「満足」と感じられる項目の上位,「早く診察を切り上げようとする雰囲気がある」が「不満足」と感じられる項目の上位でした。ご本人よりご家族のほうが「不満足」の評価をする傾向があり、コミュニケーション能力の評価では「尊敬や信頼ができる」「話をよく聞いてくれる」が現状では「満足」と感じられる項目の上位、「急変時の対応策を教えてくれない」「適当に扱われ,親身に対応してくれない」が「不満足」と受け止められる項目の上位でした。この日本で初めて実施された大規模な調査により、担当医の診察態度・コミュニケーション能力についての患者・家族としての立場からの評価がわかったのでした。

 その後、このアンケートでの自由記述の部分についての論文化を模索されていたところ、計量テキスト分析法によって新たに解析が行われ、2023年4月にイギリスの学術誌 BMC Psychiatry 誌に論文が掲載されました。このジャーナルはオープンアクセスですので、どなたでもご覧になれます。夏苅先生の日本の当事者ご本人・ご家族の想いを世界に知ってほしいという願いが伝えられることになったわけです。

Natsukari I, et.al.:How do patients and families evaluate attitude of psychiatrists in Japan?: quantitative content analysis of open-ended items of patient responses from a large-scale questionnaire survey.BMC Psychiatry volume 23, Article number: 253 (2023)
https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12888-023-04732-w

元論文は英語なので、抄録のみへたな訳出してみます。

背景
 患者と市民の参画:PPI(Patient and Public Involvement)は精神科領域で広く提唱されている。しかし、日本ではPPIが臨床の場で実践されているとは言い難い。日本の精神科医療の質を向上させるためには、PPI実践の第一歩として、患者の視点から精神科医の意識を理解することが不可欠である。本研究では、質問紙調査に現れたテーマを例示することで、精神科医の意識に対する患者の評価を調査することを目的とした。
方法
 本研究では、全国の精神科患者家族会に所属する患者家族2,683名から回答を得た質問紙調査を用いた。本調査の自由記述質問項目である「精神科医を選ぶ基準(患者回答数784、回答率29.2%)」、「担当精神科医の態度(患者回答数929、回答率34.6%)」、「担当精神科医のコミュニケーション能力(患者回答数739、回答率27.5%)」の3項目について、KH Coderを用いて共起ネットワーク分析を行った。
結果
 3つの項目に共通して見られたのは、精神科医が十分な診察時間をとっているかどうかであった。精神科医を選ぶ基準としては、患者の問題に対して適切なアドバイスをしてくれるか、患者の要望を聞いてくれるか、病気や薬について患者に説明してくれるかなどが挙げられた。また、患者が精神科医に最も改善してほしいと思っている担当精神科医の態度として、「精神科医はコンピュータを見るだけ」、「患者個々の状態に応じた診断を行う」、「患者との信頼関係の構築に努める」などが挙げられた。担当精神科医のコミュニケーション能力に関する患者の要望は、「患者の心理状態を改善するようなコミュニケーションをとっているか」、「患者の家族に配慮しているか」、「診察中に自分の気分をコントロールできるか」などであった。
結論
 その結果、自由記述項目にはない患者の要望が反映されていた。患者の自由記述回答や精神医学研究(PPI)への参加は、日本の精神科医療を改善する上で、より多くの示唆を与える可能性が示唆された。

 この論文をもとにして、当事者ご本人・ご家族へ結果をわかりやすく解説した冊子が作成されました。無料でダウンロードできますので、医師のみならず、医療関係者の方、そしてご本人・ご家族の皆さまの手に届くことができることは夏苅先生にとってとても嬉しいことであると、いただいたごあいさつ文に記されておりました。

この冊子の無料ダウンロード先(夏苅先生のプロジェクトのホームページからです⇒http://natsukari.jp/wp-content/uploads/2023/05/leaflet.pdf

 この冊子の元になったデータは、2015年に行われた「精神科医の診察態度」についての全国調査の結果です。調査の概要は以下をご参照ください。
*「精神科医の診察能力、態度、コミュニケーション能力についてのアンケート –夏苅郁子が2015年に行うアンケート調査のサイトです」 (natsukari.jp) 

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最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。