ビペリデンの等出荷停止に関して

日本精神神経学会ホームページでも報告されていますが、抗パーキンソン薬として抗精神病薬誘発のパーキンソニズムに処方されてきた抗コリン作用を持つ薬である、”ビペリデン塩酸塩錠 1mg”が、原薬を製造している海外の製造所にて、コロナ禍に関連して当該国当局から別製品供給優先の要請があったため、原薬を製造できなくなったそうです。そのため、製薬会社からは在庫消尽をもって当面の間、出荷停止となり、出荷再開時期はまだ未定となっています。ビペリデンの代替薬としてはトリヘキシフェニジルがあるのですが、こちらも出荷調整になっています。当院では対象となる薬の確保に全力を尽くしていますが、特に外来ではアーク調剤薬局の抗コリン剤在庫が現状では3カ月程度しかない事態となっています。

抗コリン剤は抗精神病薬によって引き起こされる副作用のうち、錐体外路系副作用と言われるパーキンソニズム=震え・身体のこわばり・固縮やアカシジア(正坐不能)への対処薬として使用されていますが、抗コリン剤には副作用として、口渇、便秘、尿閉、せん妄、排尿障害(尿閉)、視力障害(眼圧上昇、散瞳、緑内障等)、麻痺性イレウス(腸閉塞)、心悸亢進(頻脈)などがあり、また、認知機能への悪影響も、できるだけ減薬や中止が望ましいものです。
しかし、抗コリン薬を急激に中断すると、コリナージックリバウンドと呼ばれる吐き気、おう吐、発汗、不眠、インフルエンザのような症状、不安焦燥や精神病の初発症状のような幻覚などが生じることがあります。消化器症状がない場合、急激な精神病症状の悪化との区別がむずかしいこともあります。さらに、錐体外路系副作用の急激な悪化や、場合により悪性症候群が惹起される場合もありますので、注意が必要です。

当院では、すでに2010年前後から向精神薬処方の減量や適正化に努めており、学会でも発表してまいりましたが⇒https://www.sumiyoshi-kaisei.jp/pdf/2010-106-shinkei-gakkai.pdfそれでも、まだ少なくない数の患者様が主に外来で抗コリン剤を服用しておられます。

抗コリン剤の安全な減量の仕方については、私たちは自らの実践でデータを出して論文発表もしています。

吉尾隆、稲田俊也、宇都宮守、伊沢知紘、中谷真樹、稲垣中、鍋島俊隆:入院中の統合失調症患者における薬物療法の適正化のための抗パーキンソン薬の減量方法に関する検討。
臨床精神薬理15:217-225,2012
https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/info/20230131.pdf

抄録:我が国においては,統合失調症の薬物療法において依然として抗精神病薬の多剤併用大量処方が行われている。また抗精神病薬の多剤併用大量処方に伴い,抗パーキンソン薬や抗不安薬・睡眠薬等の併用も多くなっている。特に統合失調症患者に対する抗パーキンソン薬の併用は認知機能障害を引き起こす可能性があるため,減量・中止に関する方法を検討する必要がある。住吉病院では,統合失調症における薬物療法の適正化をはかるため,Drug―Induced Extrapyramidal Symptoms Scale(DIEPSS)とDrug Attitude Inventory―10(DAI―10)の評価結果を医師,薬剤師,看護師が共有することによって,抗精神病薬の単剤化・低用量化と抗パーキンソン薬,抗不安薬・睡眠薬の減量が可能になった。そこで我々は,抗パーキンソン薬の減量ができた患者の処方調査を行い,抗パーキンソン薬の減量方法を検討した。その結果,抗パーキンソン薬の減量・中止はDIEPSSとDAI―10の評価結果に基づき慎重に行い、(ビペリデン換算で)0.4~0.7mg/2weekの減量速度で行うことが適切であると考えられた。

また、https://pmc.carenet.com/?pmid=25489477宮本聖也を研究代表とした科学研究費補助金研究2008-2010
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-20591379/20591379seika.pdf によっても、

新規抗精神病薬を服用しながらビペリデンを併用している患者24名中23名は大きな症状変化をみずに安全にビペリデンを中止することができ、認知機能の改善も見られたということです。減量方法はビペリデン換算で1㎎/2~4週程度に緩徐に減量し、中止までには4週間以上かけることと報告しています。

私たちは、それぞれの方がそれぞれのペースで抗コリン剤の減量に取り組むことができ、そのことは精神科薬物療法の適正化に寄与すると思われますので、今回の出荷調整を契機にしてなお一層の取り組みを進めてまいる所存です。

弊法人では、精神科薬物療法サポートセンターが設立されておりますので、ご質問などあればお気軽にご利用いただければ幸いです。

 

 

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