「下手くそやけどなんとか生きてるねん」感想

 弊病院では、初期臨床研修医のドクターの精神科研修4週間を受け入れております。これまでは、研修医の皆さまには法人全体で研修していただき、病棟・外来での研修に加えてデイケアセンター、リカバリーセンターでの利用者の皆さまとの診療場面ではないところでの関わり合いやフットサルへの参加、在宅訪問への同行、アディクション医療を中心としたさまざまなグループ活動への体験参加を提供しています。その他にも、精神的困難を経験した人が医療や福祉の同僚スタッフとして働いている姿を感じていただけることも研修内容として大切にしています。そして私が研修医の皆さんにいちばん体験していただきたいと思っているのはアルコールセンター伝統の「アルコール行軍」です。

 しかし、昨年からのコロナ禍においてグループ活動には制限が課せられるようなり、この1月には山梨県も新型コロナ感染症ステージ3になったことをうけ、「行軍」も本来の形では行えなくなりました。そんな中で、リカバリーの道のりの上にあると私が感じている方の著作をFacebookで知り、手元に置いておりましたので、お読みいただくように勧めましたところ、じっくりと読んでいただき、感想文としてのフィードバックを得ましたので、ご本人の了解のもとでご披露させていただきます。
 

渡邊 洋次郎著「下手くそやけど何とか生きてるねん。」現代書館

「下手くそやけどなんとか生きてるねん。」を読んで

 「アルコール依存症で入院してから今回外泊をして、こんな世界があるんだというのを初めて知った。これがずっと続くのなら、もうお酒は辞めたいと思った。」グループミーティングに参加させてもらった時、隣の男性が放ったこの言葉がとても印象に残っている。
 恥ずかしながら私はアルコール依存症の患者に対して、偏見をもっていることに気づいた。どこか異質で自分とは違う世界の人間だと思っていた。しかしながらこの本を読み今回の実習を通して、それは全くもって違うことだと知った。
 たとえば私もお酒は好きだしついつい飲みすぎてしまうこともある。翌日に「ほどほどにしておけば良かった」と後悔したことも何度もあった。ダイエット中にもかかわらず、つい誘惑に負けてジャンクフードやスイーツに手を伸ばしてしまうことも。程度は違え、それらはれっきとした依存であろう。
 この本には作者がいかに壮絶な過去を経験し、そこからいかに病気を克服したかが書かれている。その時にどう自分と向き合ってきたか、どのような感情を持ったか、率直な言葉でまじまじと伝わってくる。
 退院してからお酒を飲んでしまったことに対して、依存症の患者自身が一番後悔と悲しみを感じているということ。そもそも自身が、強くお酒を辞めたいと思っているということも、今まで知らなかった。
 当たり前だが彼らもアルコール依存という病気に苦しむ、一患者に過ぎない。私たち医療者はその病気から克服する手助けをすること。病気に対して真に理解し、共感と傾聴を持って彼らを導くことが使命である。
 その治療の一環として、自助グループがいかに大事であるかということ。同じ境遇を持つ仲間と出会い、初めてお酒がない世界に楽しみを感じ、新たな世界を生きはじめるという経験。それらを本書から学ぶことが出来た。


 ご著者の方の書かれたことによって研修期のドクターにこのような学びが与えられたのだ、ということが私にはしっかりと伝わりました。
 
 
 
 最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。