人生、ここにあり!

いろいろな知り合いの方に薦められていた映画をようやく見に行くことができました。

「人生、ここにあり!」は、1983年のミラノを舞台にした実話をもとにした映画です。原題は“SI PUO FARE(やればできるさ)”、イタリアでは動員数40万人超、54週ロングランの大ヒットを記録し、イタリア・ゴールデングローブ賞を受賞した話題作です。

あまりにも先鋭的な考えゆえに、所属する組合から追い出された形で“協同組合180”という病院付属の組織を任される事になったネッロが、悪戦苦闘しながら、元患者の組合員たちと一緒に人間性の回復を勝ち取っていくという物語です。

イタリアでは1978年に制定された“バザリア法”によって、単科精神科病院が閉鎖されることになりました。ただし総合病院の精神科病棟は残っていますし地域精神保健センターに小規模の入院施設があり、司法精神病院には収容されている人がいるということです。それでも、長い間病院で生活を余儀なくされてきた人々が一般社会に戻ってきました。元患者さんたちは地域精神保健サービス機関の元で、本人の自由意志に基づいて治療が行われることになりましたが、それは様々な社会的葛藤を生み出し、行くあて(受け皿といわれています)の無い多くの人々は、病院付属の“共同組合”に集められる事になりました。

映画では、組合活動に関して情熱的すぎるネッロが組合にいられなくなり、社会協同組合(ソーシャルファーム)と呼ばれる、社会的弱者が社会と共存するための仕事を生み出してその訓練をする組織の一つである”協同組合180”に赴くところから始まります。この社会協同組合では、仕事は「施し」の一部で、切手貼りがわずかに仕事としてあり、成果と収入の関係もほとんどないような状況でした。組合員は多くの薬を処方されて医師の管理下で日々を過ごしていました。

ネッロは元患者さんたちも自分も同じ共同組合員であり、基本的にお互い労働者としての立場はイーブンであるという信念がありました。そこで彼は補助的な仕事ではなく、普通の仕事をしてお金を稼ぐことを彼らたちに提案しました。組合会議は、私にとってはブレインストーミングに近いもののように見え、床の板張りの仕事をする事が採択されました。しかし社会からの偏見は根深く、なかなか仕事は取れず、慣れない作業に組合員達も失敗の連続でした。自腹を切って自宅の改修を請け負わせてレベルアップを図りつつも苦戦は続きました。

そんなある日、床材が足りなくなった時に、ジージョとルカが木片を組み合わせて寄木を作って完成させた床がアートとして大評判となり、事業は一気に好転。組合員にも、少しづつ労働者としての自覚が出てくるようになりました。

その後、組合員は議論の末、組合員の自立は無理だと考えて多い量の薬を出し続けていたデルベッキオ医師の管理から離れることを決定しました。彼らはバザーリア派のフルラン医師の治療を受けることを選択し、病院から離れて共同のシェアハウスに暮らし、事務所も開設しました。

これはサクセスストーリー、と思ったのですが、そうはいきませんでした。

”協同組合180”の成功を社会変革につなげたいという思いを持ったネッロは、組合を本格的に企業化して、より多くの元患者を雇用するために、パリ地下鉄のモザイク床を貼るという大仕事を請け負おうとして会議で提案しました。ところが、労働者として自分で働いて生活することを経験した彼らは、好きな物を買い、たくさん遊び、恋もしたい、とその話を受け取りませんでした。「なぜ、仲間を助けようとしないのか?」と落ち込むネッロに「(ネッロの思い通りに事が運ばなくなる)このことが、一番の成功じゃないか」というフルラン医師の言葉に自分の人生を自分で決めていく権利をあらためて思いました。

さらに良くないことがおこりました。精神的な病を持たない女性に恋をしたジージョが、病いゆえに受け入れられないという残酷な現実に直面し、自殺してしまいました。自分のしてきたことは誤りであったのか? ただ自分が「自分を追い出したやつらを見返してやりたい」という気持ちから彼らを利用してきたのではないのか?組合員はデルベッキオ医師のもとに戻り、組合活動は中止され、罪の意識に打ちひしがれたネッロは組合活動から身を引こうとしました。しかし、それを引き留めたのは、ネッロの活動に反対していたデルベッキオ医師でした。障がいがあっても、意味のある社会の一員として普通に過ごすという生活が精神的な病の症状を劇的に改善したことが認められたのでした。

コメディでありながらも、実話に基づいた苦い側面からも目をそらさずに描いたこの映画は「働いて元気になる」ということが端的に描かれています。私たちが取り組んでいるIPS援助つき雇用の理念にも含まれる「社会の中での仕事をすること」も「適材適所」も「医療と一体化した支援」も示されている映画です。その中で、ソーシャルファームがリカバリーに果たすことのできる可能性が描かれていると思いました。働いて元気になるためには施設ではなく、事業所で働くことが重要です。そしてIPS援助つき雇用ではそれぞれの人の良い側面を個別に引き出すことを理念においていますが、ソーシャルファームではさらに、健常者=サービス提供/障がい者 =サービス利用という図式を超えて、「共に生き共に働く」ことが大きな基礎だと思いました。

私はプログラムの一文に大きくうなづきました。
「パンがなくては、人間生きていけないが、希望がなければ生きる甲斐もない。希望は単なる夢であろうか?夢には思想がある。ひとりの人間の考えが行政を動かした。(エッセイスト:秦早穂子氏)」「気負わず、焦らず、諦めず、できることから始めれば、きっと社会も変わるだろう。やればできる(イタリア語同時通訳・作家:田丸公美子氏)」

多くの皆さまに見ていただきたい映画だと思います。

人生、ここにあり!のホームページはこちら→http://jinsei-koko.com/

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。