アンチスティグマとリカバリー

NPO法人地域精神保健福祉機構コンボの本「精神障害をもつ人のアンチスティグマとリカバリー」(監修:高橋清久・宇田川健)を読みました。

リカバリーの大きな阻害要因となるのが、スティグマですが、この本はリカバリーフォーラム2010年の分科会「アンチスティグマとリカバリー」をまとめたものです。欠格条項や偏見といった外側からの烙印といえるスティグマのほかに、ご本人やご家族自身の中にある、内なるスティグマといったものもあります。

7人のシンポジストが、当事者・家族の立場から、それぞれスティグマを語ったご講演内容が一冊にまとまっています。私は当日この分科会に出席できなかったのですが、会場の雰囲気が良く伝わってくる内容でした。

当事者の方の体験をもとに、内なるスティグマをどう乗り越えたかという講演内容はユーモアもあり、特にに富んだ明るい話で、乗り越えるというよりも、いつの間にか忘れてしまったといった感じのお話もありました。そのうちのお一方は「リカバリーとアンチスティグマは車の両輪」と表現され、リカバリーが進んで元気になったご本人が社会参加してゆけことがアンチスティグマに役立つし、そのことでスティグマが少なくなれば、リカバリーも進む、と話されました。一方で、ご家族のお立場の方からは医療を筆頭に世のさまざまな分野において偏見と誤解が見られること、そしてそれらは無知、無関心に基づくものであり、現在あるような誤解・偏見を是正するには正しい知識を広めてゆくことがもっとも大切であることが強調されました。特に、漫画家である中村ユキさんのお話が心に残りました。当日は講演後、多くの質問が出されましたが、そのことへの回答もこの本には書いてあります。そして、ご質問への宇田川さんのお答え一節、「リカバリーはいつも最中(さいちゅう)にある」というものでした。その方がどこまで上がってきたか、ではなく、いつも最中にあるその人がどうあるかということだけだ、という言葉から大きな学びをいただきました。下を向いているのではなく、上に向いている方は病の重さとは関係なくリカバリーを可能にするのだというご趣旨の文章は、多くの人に読んでもらいたいと思いました。そして、診断や治療あるいは支援という方法論を通じて、人様の人生に手をかけている自分自身においても、目の前の人のあり方について考えることが重要であることを再認識したような気がしました。

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。