MESTRO DO KOFU

昨日は土曜日。お昼過ぎに勤務を終えて、中心街にある”まちなかヴァンフォーレプラザ”に行ってきました。お目当ては「林健太郎引退記念グッズ」でした。Tシャツ、ペナント、タオルマフラーが発売されていました。林健太郎選手が、本当に引退するのだという実感をしみじみと感じてしまいました。もちろん3点すべて買わせていただきました。

タオルマフラーの似顔絵・・・髪型が・・・なんともいえません。若いですねぇ。そして、ペナントの写真は、林健太郎の代名詞でもある、職人PK-今年の天皇杯でついにヴァンフォーレサポーターに披露したときのもの-に見えます。つま先の踏み込み、まったく相手しか見ていない視線、インステップで蹴る時の足首の先にまで気持が行き届いているという、林ならではの一瞬をとらえています。

引退記念Tシャツにも、林健太郎の輝かしい経歴が記載されています。かつて一世を風靡した桐蔭学園高校-駒澤大学というサッカー歴。ヴェルディ川崎に入団後は日本代表にも召集され、一時代を築いた選手であることは間違いありません。常にプレーを真剣に考え、ボランチであるもののファウルをもらわない、(スライディングで)パンツを汚さないことから「美白のボランチ」と呼ばれ、スキルの高いプレーヤーの揃うヴェルディの中盤に君臨しました。

そのプレーは懐が深いもので、たとえば相手の中盤がドリブルで上がる時には、林は同時にサイドを駆け上がってくる相手チームのサイドバックに顔を向けたりします。相手に半身になって足を動かすのではなく、正対して止まったりします。相手プレーヤーは林がサイドバックに気を取られていると思ってドリブル突破を試みるのですが、実は林は顔こそ横を向いているものの、視線は向かってくる相手をちゃんと見ています。そして誘いに乗ってドリブル突破を試みる相手のボールタッチが大きくなったところをすくい取るようにさらうのでした。色々と思い出させる場面それぞれが、柔らかく奥深いものでした。

林のプレースタイルは常に「遅い」という批判をもらうようなことがあるものでしたが、そのボールタッチの多さから「タメて」出すという緩急の変化とパスにメッセージがこもる丁寧さこそが、かつてのヴェルディが誇ったパスサッカーの基盤でありました。そしていつしか林は「マエストロ」と呼ばれるようになっていました。

甲府に来てから、以前よりも自分自身で直接プレーすることを選択するような場面が増えたように思います。スタミナはヴェルディ時代よりアップしたようにすら見えました。それでも林はチームの中での自分の位置を常に考えながら甲府でのシーズンを送りました。林が移籍してから1年ちょっと経ってから、私は甲府に生活の基盤を移しました。相変わらず、林への周囲の評価は二つに分かれているように思いました。

サッカーは、ただしゃにむに走り回ってボールを蹴り合うものではない、という評価基準においてのみ、林のような選手は評価されるでしょう。逆にいえば、ショートカウンターが攻撃のすべてのスタイルであると考えるサッカースタイルが「正しい」ものであれば、もう彼のような選手が現れることは二度とないかもしれないとすら思います。

林健太郎が今後、どのような人生をあゆんでいくのかは彼自身にしか決定権がないことですが、彼にしかうち立てられない理念、価値における基準を作り、サッカーの醍醐味を再び世に問う選手を私たちに出会わせてくれるようになれば私は嬉しいと思います。



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