【読書感想文】精神科の薬について知っておいて欲しいこと(その4/完)

J・モンクリフ著:石原孝二・村上純一・高木俊介・岡田愛訳「精神科の薬について知っておいて欲しいこと」日本評論社、の感想文「その4」です。

前回のブログはこちらをご覧ください。

第9章はいよいよ「精神科の薬からの離脱」です。

 第10章は「精神科の薬が役立つときはどんなとき?」です。さまざまなカテゴリーの向精神薬が、「疾患を治療する」のではなく、その薬理作用の特性が症状とみなされる個人的な出来事に好ましい影響を与えたり、それ以外の作用の問題が生じるという前提に立てば、特定の疾患を持つすべての人に単一の治療、または一連の治療があるという考え方は、その治療が薬であるか特定の種類のセラピー[心理療法]であるかにかかわらず、意味がない、としています。

 統合失調症をお持ちの方への薬物療法以外の選択肢については、カリフォルニア州のソテリアハウス、ロンドンのキングスレイ・ホール、メリーランド州のチェストナット・ロッジに触れられていました。第4章にもあったとおり、ゾテリア・ベルンをはじめとした、同じような状況にあった人々の助けを借りて、その経験をふり返ることができるようになるというプロセスが好ましいものとして紹介されており、さらに、精神科の薬を使い始めるかどうかの判断のための情報がまったく不十分であるとしています。

 第11章には精神科薬物療法の未来に向けて、という章を設けて、半世紀にわたって正しいと思われてきた「薬物中心モデル」が、「疾患中心モデル」に変節していく過程を示しています。その上で精神疾患の本質を述べて、結局のところ、「人間のありよう」は色々、と結論しています。

 最後の一言として、薬物作用モデル、を推奨しながら、今なお広まっていく過剰処方についての危惧をあらためて記して本は締めくくられています。

 モンクリフの疾患中心モデルと薬物作用(中心)モデルについては、この論文で論じられています。全文ダウンロードできるので、機会があればご紹介できれば、と思います。

J. Moncrieff:Research on a ‘drug-centred’ approach to psychiatric drug treatment: assessing the impact of mental and behavioural alterations produced by psychiatric drugs.Epidemiology and Psychiatric Sciences (2018), 27, 133–140 doi:10.1017/S2045796017000555

 本の終わりに訳者5名のうち4名があとがきを書いています。いずれも、この本を訳したことによる自身との対話が描かれています。異口同音に現状を憂い、何かを始めなくてはいけない、という気構えを感じます。

 訳者たちが気づかない、もしくは言及していない、今現在、薬に頼らないためにはどうしたらいいのかを模索している方々がたくさんいることを知っています。そして、もともとの人の葛藤や苦悩に対する個々の人間のありようについて、症状や診断をくださずに、すなわち、医学化せずに尊重されることを実践している人たちにこの本を読んでいただきたいと思いました。

  

 

 

最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。