【読書感想文】精神科の薬について知っておいて欲しいこと(その3)

J・モンクリフ著:石原孝二・村上純一・高木俊介・岡田愛訳「精神科の薬について知っておいて欲しいこと」日本評論社、の感想文「その3」です。

https://sumiyoshi-kaisei.jp/blog/2023/06/18/post-74751/

第9章はいよいよ「精神科の薬からの離脱」です。

 まず、ベンゾジアゼピンの体内動態と耐性について触れ、有名なアシュトン博士からの引用で、薬の中止した状況での「多くの神経伝達物質とその受容体、そして多くの脳システムが関係する抑えの効かないリバウンド」が起こります。という一文が紹介されています。そして長期に服用してきた人ほど止めることが難しいとされています。

次に、薬物治療を中止した際に起こりうることがらについて述べています。それらは、
1.急性の離脱症状
2.遷延性離脱症状
3.離脱そのものによる病状
4.離脱による再発
5.心理的依存
にわけられています。ここには、向精神薬の減断薬に取り組んでいる専門職とご本人にはよく知られた減断薬時の述べられています。

抗精神病薬からの離脱の項では「抗精神病薬を中止すると新たな精神病症状が出現する」ことが書かれています。そして徐々に減断薬することの方がメリットがある可能性が示されています。私としては、Harrowらの縦断研究での減薬の方法について記載されていると役立ったのではないかと思いました。

 ちなみに、わが国では「抗精神病薬の多剤大量投与の安全で効果的な是正に関する臨床研究」より、SCAP(safety correction of high-dose antipsychotic polypharmacy)法による減量プロトコールが提案されています。
 このSCAP法では、抗精神病薬の減量速度を以下のように規定しています。
1回・1週当たりの減量は高力価薬[クロルプロマジン(chlorpromazine ; CP):100㎎との等価量が10 ㎎未満であるもの]はCP換算で50 ㎎以下の低力価薬(CP 100㎎との等価量が10 ㎎未満であるもの)はコリン性副作用の離脱を考慮してCP換算で25 ㎎以下としている。しかしながら、SCAP法にそぐわない事例が存在することや個別の抗精神病薬の薬理学的な特徴や薬物動態を考慮した減量方法について検討されていないため、日本精神薬学会では、従来のSCAP法に準じて減量を行った症例を収集し、減量や単剤化に成功した例やSCAP法にそぐわなかった例を集積し、事例集を作成するとともにこれらの事例からより有用性の高い抗精神病薬の薬剤別の減量方法の基礎を構築していくことを目的とした研究を募っています。
https://www.js-pp.or.jp/drug-weight-loss-guidelines/

引用文献
1) Sukegawa T, et al: Study protocol: safety correction of high dose antipsychotic polypharmacy in Japan. BMC Psychiatry 14:103, 2014.

抗うつ薬とベンゾジアゼピンに関しては、深刻な合併症を回避するには、以前考えられていたよりもはるかにゆっくりと薬を減らす必要があると述べられており、私の実感と近い気がします。抗うつ薬離脱に関しても、めまい、インフルエンザ様症状、過敏性、しびれてぴりぴりする感覚などなどの苦しい症状が出現すると記されています。

ベンゾジアゼピンに関しても、抗うつ薬と同様に「ブレインザップ」=頭の中を電気ショックされるような感覚や、耳鳴り、筋肉のこわばり、離人感、落ち込みなどこれもよく知られた離脱症状が列記されています。脳内報酬系に対するベンゾジアゼピンの作用の研究によると,ベンゾジアゼピンは,腹側被蓋野のドパミン作動性神経に抑制的に働いている介在神経(GABA作動性神経)のα1 -GABAA受容体に作用し,GABA作動性神経を脱抑制することによりドパミン作動性神経を活性化し(報酬効果),側坐核でのドパミン放出量を増加させることが示唆されています。このことが依存性を発揮し、統合失調症モデルの症状を惹起するのではないかと考えられることを付記します。

実際の離脱に関しては、確定的にわかっていることは本当に少なく、ベンゾジアゼピンの減量では、Horowitz,MによるGABA受容体占有率のジアゼパム容量のグラフが示され、低用量になればなるほど少量の減量で受容体占有率が大きく低下することが示してあります。このグラフはどこかで見たことがある、と私は思ったのですが、同じ筆者が2021年に発表した抗精神病薬の減薬についての論文でハロペリドールに関しても示されたものでした。ベンゾも抗精神病薬も減薬の最終段階が難しい、という臨床的印象と合致していると感じました。https://academic.oup.com/schizophreniabulletin/article/47/4/1116/6178746

本文中に示されているイカロスプロジェクトの離脱ガイドラインは日本語版が無料で公開されており、非常に参考になると私も思いますので、ブログでもリンク先を貼っておきます。https://www.willhall.net/files/ComingOffPsychDrugsHarmReductGuide-Japanese-ZinePrint.pdf

 

最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。

(続く・・・予定です)