【読書感想文】精神科の薬について知っておいてほしいこと(その2)

https://sumiyoshi-kaisei.jp/blog/2022/10/27/

昨年の10月に感想文を書いて以降、ずっと書こうと思いながら書いておりませんでした、

J・モンクリフ著:石原孝二・村上純一・高木俊介・岡田愛訳「精神科の薬について知っておいて欲しいこと」日本評論社、の感想文「その2」です。

前回は第4章「抗精神病薬」までの感想だったかと思いますが、今回はその続きになります。

第5章「抗うつ薬」第6章「躁うつ病や双極性障害に使用されるリチウムなどの薬」については、成人のADHDをはじめとした disease-mongering 病気喧伝と、疾患概念の拡大、さらには処方適応の範囲の増大などが述べられ、診断がゆがめられている点とならんで、それらの治療薬の作用機序が生物学的な疾患概念モデルと一致していない点、また、薬の利点が思ったほどには大きくなく、有害作用の大変さや離脱症状の深刻さがあげられていました。

抗うつ薬ではその有用性に疑問を呈しながら、離脱症状と自殺の増大について頁を割いて述べられ、「うつが脳の機能不全によって引き起こされる病いであるという考えっを裏付けるエビデンスはありません。」と明記しています。

第7章「刺激薬」は [とくに子どもに関わる人たちへ] と副題がついており、刺激薬の作用は疾病に向いたものではなく薬理作用で説明できるため、「効果」とみえるものがADHDの診断の有無にかかわらず認められると指摘しています。そして刺激薬の長期服用が精神病状態を起こしたり、うつ病に似た症状が出る場合、不安焦燥、不眠が起こることにも触れています。また、子どもに薬を飲ませることが自分の行動は脳の欠陥によるものであるというメッセージを送ってしまうことの危うさにも警鐘を鳴らしています。

第8章は「ベンゾジアゼピン系の薬」についてです。弊ブログをお読みの方にはおわかりのことと思いますが、この薬の効果は短期的にはよいものの、連用すれば耐性と離脱が起きてくることが問題です。そして、精神病状態や躁状態への使用についても言及していますが、研究が短期のものばかりで長期的には効果は不明としています。

文中に、
Carpenter WT et.al.:Diazepam Treatment of Early Signs of Exacerbation in Schizophrenia.Am J Psychiatry :Published Online:1 Feb 1999 https://doi.org/10.1176/ajp.156.2.299

の論文について触れられていますが、文中では「その結果は、ジアゼパムはプラセボよりも再発防止効果が高く、抗精神病薬の服用を再開するのと同等の効果がありました」と記載されています。もとの論文をネットで読んでみましたが、このCarpenterらの二重盲検試験は53名の対象者をプラセボ・フルフェナジン・ジアゼパムの3つの群に振り分けたうえでの「早期警告サインが生じた際の介入」試験です。この場合、精神病症状以外の変化をも警告サインととらえているため、睡眠障害、不安やその他の不快な感情の増大、動揺や過敏症、猜疑心の増大、独特の知覚体験などの精神病症状でないものが含まれています。そして対象者は抗精神病薬治療を受けた経験がある方で減薬は即時中止でした。観察期間は4週間でした。これらから「抗精神病薬を服用していない人が統合失調症を再発するリスクを軽減できる可能性があります」と結論するにはデータが小さい気がします。

Doldらは2657人の参加者を含む34の研究をレビューした論文を発表しています。Dold M, et al. Benzodiazepine augmentation of antipsychotic drugs in schizophrenia:a meta-analysis and Cochrane review of randomized controlled trials. Eur Neuropsychopharamacol. 2013 Sep;23(9):1023-33.

この論文では、34の研究のうちほとんどは、サンプルサイズが小さく、期間が短く、アウトカムデータレポートが不完全であったと指摘されています。このレビューによればベンゾ単独療法とプラセボの比較が8つの試験で行われたが有意差はなく、評価結果も全身・精神状態のさまざまな評価スケールが用いられており整合性がありませんでした。抗精神病薬単独療法とベンゾジアゼピン単独療法とを比較した試験は14あり、抗精神病薬群と比べてベンゾジアゼピン群のほうが、20分、40分時点で至適な鎮静を得られた被験者が有意に多かった。抗精神病薬+ベンゾジアゼピン併用療法と抗精神病薬単独療法とを比較した試験は20あり、統計的に有意な改善が示される可能性があったのは、併用療法での最初の30分だけであった。これらから、Doldらは統合失調症薬物治療のために、ベンゾジアゼピンを単剤療法/抗精神病薬と併用する有効性に関する明確なエビデンスは現在のところ存在しないこと、エビデンスレベルの低い研究によれば、ベンゾジアゼピンは非常に短期間の鎮静に効果的であり、重大な副作用は一般的に報告されていなかった、として、統合失調症におけるベンゾジアゼピン治療の有効性に関するエビデンスは不明確、限定的だとしています。私も同様に考えていますので、抗精神病薬の代わりにベンゾジアゼピンを短期間だけ使用することの可能性をまったく否定するものではありませんが、メリットが大きいと確定することはできないように思いました。

 

 

最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。