御領棚田のろうそく祭り

山梨県甲斐市敷島亀沢と吉沢にあり南アルプスと甲府盆地を一望することのできる場所にある棚田は、今から440年ほど前、天正11年(1583年)に徳川家康より天沢寺に賜った「御朱印」を受けて急斜面の地帯を開発した歴史を持つため「御領」の棚田と呼ばれています。面積が広がったのは第二次大戦直後の入植者の開拓事業によるといわれますが、かつては1000枚以上あり関東随一の景観といわれたこともありましたが、1990年代には約800枚の棚田のうち約6割が荒廃しました。
この景観を守ろうと、2003年に地元の山梨県庁職員とOB、旧敷島町役場職員や地元の農家さんが中心となり「NPO法人敷島棚田等農耕文化保存協会」が設立され、景観の保全、周辺の耕作放棄田の整備、地主への耕作再開の呼びかけ、後継者探しなど活動を始められました。その結果、現在は約70%が棚田として復活しています。

2014年からはこの地区の活性化を目的に御領棚田で「ろうそく祭り」が開かれています。これは約700本のろうそくを透明な瓶などに入れ、2~3メートル間隔で田んぼに設置して棚田の水面に映る灯と背景に広がる甲府盆地の夜景による幻想的な光景を楽しむお祭りです。新型コロナウィルスのパンデミック下で3年ぶりの開催となった6月11日、私もでかけてみました。

昔、この地区には「結」と呼ばれる農家の文化があったそうです。「今日はおれんちの田んぼ」「明日はおまんとこの田んぼ」と、険しい山あいでの農作業を、互いに手を貸し合い、助け合ったのだそうです。時は移り、かたちは変わっても、人をつなぎ、想いをつなぐ「結」をふたたびつないで、この美しい棚田を、明日へ伝えていこうとする試みとして「花田植え祭り」「棚田ろうそく祭り」「案山子祭り」などが開かれているとうかがいました。

たくさんの人びとに棚田の美しさを伝えたいと開催される「ろうそく祭り」ですが、田んぼの畔のところにおかれたろうそくに日没とともに火がともされ、周囲が暗くなるにつれ幻想的な景色が浮かび上がりました。

先人の知恵をつなぎ、失われかけたつながりの回復。自分自身の手がけているものとの近しさを感じるひと時でした。