IPSとハウジングファーストのスピリット

ハウジングファーストとIPS援助付き雇用はとても類似点が多いように思いますが、最近の私たちの就労支援についての方向性をもう一度振り返る意味も含めて、それぞれのプリンシパルについて一緒に眺めてみました。

IPS援助つき雇用の原則

1.競争的雇用に焦点が当てられている
2.仕事探しをいつ始めるのかはクライエントの選択に基づいている
3.リハビリテーションと精神保健サービスの統合
4.クライエントの好みを尊重する
5.個別の経済的カウンセリングが提供される
6.迅速な職探し
7.系統的な職場開拓
8.無期限の個別支援
Dartmouth IPS Supported Employment Center: IPS Practice & Principles.
http://sites.dartmouth.edu/ips/about-ips/ips-practice-priniciples/

ハウジングファーストの原則
Pathways to Housing ” Housing First” Sam Tsemberis, HAZELDEN.

A.住まいは基本的人権である
  医療サービスを受けることを前提にしないということですが、IPSの除外基準なし
  に相当する気がします。ハウジングファーストでも、誰がうまくいって誰がうまく
  いかないかは予想できないそうです。
B.すべての利用者に敬意を払い、あたたかく、共感を持って接すること
  希望や大丈夫、というメッセージを伝えていく。リカバリー志向の実践の核の
  1つとなる部分で、これはIPS援助付き雇用では前提だと思います。
C.利用者が必要とする限りにおいてかかわりを続けること
  ハウジングファーストでは利用者が入院したり刑務所に入ってもかかわりは
  続きます。IPSの支無期限の個別支援、に相当する気がします。
D.地域に分散した住まい、独立したアパート
  施設ではなく個別の住居を提供する。働くことについて、IPSが「ふつうの仕事」
  として競争的雇用を目指すことと同じ方向性があるような気がします  
E.住まいとサービスの分離
  ここが大きく違っています。IPSは医療チームとの統合がプリンシパルにありま
  すが、ハウジングファーストでは主にACTのような包括的コミュニティケアで支援
  を重ねて提供します。その支援目的はそれぞれの人が自分のニーズに自分で
  対処できるようになることを手伝うことであるとしています。医療サービスと離れて
  も支援は行われます。もちろんIPS援助付き雇用で統合されている医療スタッフ
  がノンコンプライアンスの人にも支援を与えるのであれば、これは両社の矛盾
  にはならないでしょう。  
F.コンシューマーの選択と自己決定
  IPS援助付き雇用のクライエントの意向が尊重される、といつ仕事を探し始める
  かはクライエントの選択による、に相当していると思います。
  「何がしたいのですか」とクライエントに問いかけることからIPS援助付き雇用も
  ハウジングファーストも
始まります。
G.リカバリーオリエンテーション
  支援は病気を治すという意味での狭義の治療ではなく、「人々が望むところで
  暮らし、働き、学び、参加するリカバリープロセス」を本人の自己決定に基づいて
  支援するという基礎があります、これは近年のさまざまな支援の基礎的な考え方
  に共通したものと思います。
H.ハームリダクション
  ハームリダクションとは、依存症や精神症状を自分でコントロールすることを
  促すご本人主導のアプローチ法を意味しています。完全な自己コントロールが
  できなければ支援しない、という
ことではなくご本人の希望に基づいて支援し、
  依存や症状の悪影響を軽減していくという考えによっています。

世界の医療団ウェブサイトより参照→http://www.mdm.or.jp/activity/domestic/hftp.pdf

あらためて、二つのリカバリー志向の支援の根幹の重なりを感じるとともに、IPS援助付き雇用が当初はデイケアセンターを閉鎖したことによって自然な支援の中で成立してきたこと、ハウジングファーストは精神科医療とは異なった実践の中から提唱されてきたもの、という出自の違いも感じました。

※最後に、ハウジングファーストの対象者となる人たちについて少し書きます。日本では「路上
生活者」を主なハウジングファースト支援の対象者としてきたようにみえますが、アメリカでは
シェルター(ホームレス緊急一時宿泊施設)にいる人、イギリスでは家があるけれどもそこに
安心して住めない人も”ホームレス”に含みます。つまり欧米では「不安定な人たちも含めて
の支援」がハウジングファーストです。このことからは、精神科病院に長期に入院している
人たちも、一時的に集団で暮らすことを余儀なくされている人たちも「ハウジングファースト」
の対象となるのではないでしょうか。

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。