リカバリー志向の家族支援の実際

浜松で行われた第5回ACT全国研修大会で「リカバリー志向の家族支援の実際」という分科会に参加して学びました。

かつては、ご家族は統合失調症発症の原因であるかのような仮説がありました。いわゆる「統合失調原性母親(schizophreno-benic mother)」の時代です。この「家族病因論」は、そもそもは精神病が遺伝病であるとか、脳の器質性の不可逆な病であるという思い込みへのアンチテーゼとして提唱されるようになったのですが、この仮説ではご家族は「病んでいる」つまり治療されるべき存在とされ、1950年代後半のアメリカを中心に専門職による家族療法が流行しました。とりわけ、コミュニケーションのあり方に注目したBatesonの「二重拘束説(double-bindtheory)」が有名でしょう。これらの仮説ではご本人の症状を「異常」な環境におかれた人間の「理解可能な」反応である、という解釈を可能にし、「患者は異常」というステイグマからの解放がもたらされましたが、一方でご家族のありかたに新たなステイグマをもたらしたと考えられています。

しかし、特定の家族関係が統合失調症の子どもを生みだすという「家族病院論」はその後の研究で追認されることはありませんでした。1970年代に入り、家族療法は次第に臨床の第一線からは後退するようになり、同じころアメリカでは脱施設化に伴って地域ケアが広がり、ケアマネジメントの手法が重視されるようになりました。また、ご家族を中心とした全国組織、NAMI(National Alliance for the Mentally Ill)が結成され、このご家族の組織から「家族病因論」は異議申し立てを受けました。

その後に入れ替わりで登場したのが感情表出(EE:Expressed Emotion)研究です。家族の感情表出と、患者の退院予後とご家族の情緒的な反応には県連があるというイギリスでの研究が発端となりました。本格化する脱施設化の過程において「ご家族のもとに帰ったご本人たちの回転ドア現象」をいかに防ぐのかという点に関心が向き、地域ケアの「担い手」としてご家族がみなされるようになった時期でもあったかもしれません。この研究は、「原因追究」ではなく、病気にかかった人がより良い予後に行きつくにはどうしたら良いのかに焦点をあてたものでした。

家族の高いEEが再発をもたらすとするその根底には、統合失調症は生物学的な疾患であり、環境のさまざまな因子に「うたれ弱くなる」というストレスー脆弱性モデル(stress-vulnerabirity model:Zubin)という仮説があります。そして、その仮説を基盤として心理教育プログラム(family psychoeducation)などによる「家族介入」研究がすすめられました。ご家族は病気の原因ではないものの、ご家族の対応の仕方とご本人の再発には関連があると考えて、再発予防において、病気に関わる知識について心理的な配慮のもとに教育と対処技能を提供するものであるというものです。

ご家族にはご家族であるがゆえに、ご本人に果たしうる役割があり、ご家族を支援する、ことがプログラムの基本的姿勢です。ただし、ご家族に再発予防治療を実践することを強いるものではなく、支援を通してご家族の負担も軽減されることを目指しています。これらのプログラムは精神科医・ソーシャルワーカー・看護者ほか専門家の主導的のもと行われます。

しかし、心理教育プログラムに対しては、関心がご本人の再発予防に家族がなすべきことを専門職が押し付けているのではないか、また「再発」をめぐる新たな責任を家族に問う方法ではないかということ、家族を治療協力者とするための教育なのではないか、などの批判です。

日本心理教育・家族教室ネットワークでは、心理教育を以下のように定義し、ご家族への支援を志向しています。

しかし、ご家族は教育されるべき「知らない人」ではなく、ともに人として協力し合う仲間同士という視点が必要だと思ってもいます。そのような意味あいから、当病院では「家族教室」はありません。「ご家族の集い」がネーミングです。標準版心理教育でも、構造として知識を教え込むだけではなく、問題解決について知恵を出し合うことが重視されています。

私たちは、ご家族の立場の方にもすべての人と同じようにリカバリーが起こると考えています。研修会では、ご家族のリカバリーについて
 ・自らの人生を自らの足で歩む、で考えてみると・・・
 ・まずケアしない権利を保障する
 ・その上でケアする権利を保障する
 ・これらがない中で、家族のリカバリーは起こりえない
となっていました。

リカバリー志向の家族支援には
 1.家族一人ひとりのニーズを探る
 2.ケアに必要な知識や情報の提供
 3.本人や家族間のコミュニケーションの練習
 4.問題解決と目標達成
 5.気記事への準備
があげられていました。

リカバリー志向の世界観では、ご本人もご家族も、スタッフもそれぞれが尊重されて対話の中から成長のきっかけを見出すような実践がわきそうなきがしました。ご家族への支援とは、ご家族を「患者」の「治療の協力者」として再定義したり、医療の枠組みの中でのみ関係性をつなぐことを意味しないと考えます。

近年、アメリカでは専門家主導のプログラムとは別に、「家族」が「家族」を教える、Family-to-Family Programが、NAMIにより開発され、行われています。実際のセッションは、ご家族だけが参加できるクローズドで行われるということです。同じ立場にあるからこそ伝わるものがあり、苦悩のわかちあいが生まれるのだろうと思います。ご家族へのアプローチもご本人へのそれと同様に、個別性を大事にしながら、ピアサポートを意識して行っていくことが重要であることが理解されるようになってきたのだろうと思います。私どもも、ご家族の会との水平な関係を意識しながら、サポートをさせていただきたいと思っています。

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。