夏の読書

お盆休みのある日、あまりの暑さに耐えかねて、つれあいと八ヶ岳のふもとに出かけました。清里から甲斐大泉に抜けるいつものルートをドライブしつつ、久しぶりに八ヶ岳倶楽部でお茶のひとときをすごしました。

  

木陰のデッキでのんびりと読みかけの本をめくっておりました。今回読んだ本は

岡田尊司著「統合失調症 その新たなる真実」PHP新書 です。

統合失調症は100~120人に1人が一生のうちにかかる身近な心の病いですが、統合失調症についての情報は十分に普及しているとは言い難いと思います。さまざまな啓発本がありますが、この本はわかりやすさと、その根底にある筆者の統合失調症・心の困難を経験している人々への暖かなまなざしを感じる良書です。

神経学的、遺伝学的メカニズムで解明されたことなど、最近の科学的研究成果の知見なども盛り込みながらも、それ以上に社会的な要因に焦点があてられています。病の仮説であるフィルター理論や認知機能の特性についても触れられています。そして近年ようやく知られるようになった「近代化されていない社会」において予後が良いことへの言及には説得力があります。
治療の進展の歴史や治療薬についての言及もスマートにまとまっていて、ご本人・ご家族にとり役立つ内容では、と思います。 とくに「いかに治療して支えていくか」にはさまざまな役立つことや気づきのきっかけがあるように思いました。

文中で、18世紀末に革命後のフランスでピネルがビセートル病院において精神病者を鉄の鎖から解放して医学的治療を受けさせた、「鉄鎖解放」として精神科治療学史において有名なできごとについて触れたくだりが印象に残りました。それは、この「解放」は精神病者の人間性を復権させた人道的な善行という話だけではなく、それまで神秘的自然観や畏敬の念で見つめられてきた狂気が医学として管理され克服される対象となった歴史の歯車を逆に回すものではなく、M.フーコーの主張するように、狂気を医学の名のもとに既成の価値体系や道徳的抑圧といった社会規範の枠組みへと組みこんでいった過程の一部かもしれません。統合失調症の予後は先進国よりも発展途上国の方が良好であるという事実の指摘とともに、筆者が統合失調症を持つ人を病の側面ではなく、人間としての社会的文脈の中でとらえ続けようとする点に好感をもちました。

「この一冊」として携えることのできる本だと思います。

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。