統合失調症を持つ人の転帰は発展途上国の方が良い
- 2013.06.11
- 日記
Hopper K, Wanderling J (2000) Revisiting the developed versus developing country distinction in course and outcome in schizophrenia: Results from ISoS, the WHO colloaborative follow-up project. Schizophrenia Bulletin 26, 835-846.
統合失調症の国際的な研究としての世界保健機関(WHO)のISoS研究では、先進国(アメリカ、イギリス、アイルランド、デンマーク、チェコ、スロバキア、日本)において、統合失調症と診断された個人が発展途上国(インド、コロンビア、ナイジェリア)の人々より長期的(13年以上)転帰で劣っていることを指摘しました。
発展途上国の持つ経済的あるいは文化的な側面が、統合失調症を持つ人々にとって治療的であり、リカバリーを促進している可能性があるとも考えられるわけです。一方で、この転帰の際についてはさまざまな推論や、差異そのものがなんらかのバイアスに起因するのではないかとの意見もあります。
Bresnahan M, Menezes P, Varma V and Susser E :International Study of Schizophrenia.May 14, 2009 によれば、最も一般に表明された転帰の際に関する説明は、4つのカテゴリーに分類されるそうです。
1.家族関係
家族関係は、発展途上国においてリカバリーにより貢献する場合があり、発展途上国では、統合失調症を持つ人の家族は治療、サポート、回復と社会復帰に密接に関与しており、統合失調症を持つ人は家族という社会から離されがたいと考えられます。さらにまた、データでは発展途上国では家族による感情表出(先進国集団では再発を予測している指標)のうち、感情的な巻き込まれ過ぎが少ない、ということがこの見方を裏づけているそうです。
2.非公式の経済
発展途上国において、研究家は、しばしば、自給経済においては社会的な働く人としての役割への再統合は例外というよりもむしろ原則であると主張しており、低収入の国では、(賃金獲得以外の)非公式の経済は、働くことによる社会への再統合が起こるための、より多様な機会を提供している可能性があるとされています。
自給自足的な社会では、働くことと賃金を得ることはイコールでないため、「失業者」の立ち位置はまれなことになり、社会では精神疾患を持つ人が生産的な役回りをはたすためには、その人なりの能力に合った仕事で地域に貢献すればよく、そのことにより社会からは一定の評価と安定した期待が注がれてもいることになります。
一方で先進国で働く人に負わされている、高い生産性や競争力が問われる状況は精神疾患を持つ人の回復には不適であると言ってもよく、小作農的な文化(家畜の世話や農林畜産業、子守りなど)の日常生活の中にある、さまざまな働く役割を果たすことによるリカバリーの進展が再考されるべきかもしれません。このことは、IPS(Individual Placement and Support)援助付き雇用モデルの就労支援における、それぞれの人の働き方を追求して成果をあげようとしていることとも共通しています。
我が国においても、農作業を一つのモデルとした、時間にしばられない、比較的短時間の効率を要求されないような働き方の有用性が強調されてもよいと思います。
3.精神障害者の差別
発展途上国では、精神的な疾患をもつ個人は、病院または他の施設に隔離されにくい。そして、精神的な疾患が発展途上国でより汚名をきせられる可能性がないことが示唆されているそうですが、ただし納得のいくデータはこの点においてないということです。
4.地域結合
地域は、社会的統合と隔離の程度の上で異なる可能性がある、潜在的に、多かれ少なかれ治療的である状況を生成する、リカバリーのために可能性に影響を及ぼす。
これらの推測のそれぞれの基礎は、社会的環境であり、そのために発展途上国は、有効性の知られている最新の治療法(例えば薬物や家族介入)が提供されている先進諸国(発展途上国の環境ではしばしば利用できない治療)と対照的に、統合失調症の人々により良く貢献している。
※Bresnahan M, Menezes P, Varma V and Susser E :International Study of Schizophrenia.は、こちらをご参照ください→http://www.health.am/psy/more/international-study-of-schizophrenia/
最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。
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