治療抵抗性統合失調症薬クロザピン

統合失調症の薬物療法として抗精神病薬は1950年代のクロルプロマジン以来の長い歴史がありますが、わが国の抗精神病薬治療は、ながらく多剤大量処方が続いているとされてきました。その理由には入院されている方一人当たりに担当する医師や看護スタッフの数が一般科より少なくてよい、とされる「精神科特例」の問題や、そういったアンダースタッフを過鎮静によってコントロールしようとする病棟運営のあり方、不適切なベンゾジアゼピンの使用などもあげられますが、理由の一つとして「治療抵抗性の患者様にクロザピンを使うことができない」ということが挙げられてきました。

クロザピンは、難治性の症状の改善効果が優れているとされており、これまでに抗精神病薬を2種類以上を十分量(クロルプロマジン換算1日600mg以上)、十分期間(4週間以上)使用しても症状が改善しない場合と副作用により十分な薬物療法を行えない場合や遅発性ジスキネジア、遅発性ジストニア、コントロールできない錐体外路系副作用のために十分な薬物量が使用できないためなどの理由で十分な機能回復が得られない「治療抵抗性統合失調症」をお持ちの方々に有効性が認められている抗精神病薬です。

クロザピンは開発されてから長い歴史のある薬剤ですが、副作用の問題など紆余曲折があってわが国では2009年に、ようやく使用認可がおりました。世界基準からは20年近く遅れましたが、重い病や薬を使いにくく困難が続いている、治療抵抗性統合失調症をお持ちの方々の回復に、ある種の可能性が追加されると考えられます。

ただし、クロザピンを使用するうえでは副作用への配慮が十分になされる必要があります。クロザピンでは他の非定型抗精神病薬に共通する副作用のほかに、特に注意すべきものとして、無顆粒球症や白血球減少症などの血球に対する副作用、心筋炎や心筋症など心臓に対する副作用があるとされています。また、第二世代抗精神病薬の多くに共通する副作用である耐糖能異常のために糖尿病をお持ちの方への投与は原則できません。
こうした副作用への配慮から、クロザピン使用時には医師・薬剤師・コーディネーター、医療機関、そして服用される患者様のデータをクロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)に登録し、継続的な血液モニタリング義務づけられています。また、導入時には入院が原則で、18週間医師の常在する環境下での治療開始をしなくてはなりません。さらにこの薬を使用する医療機関には、重篤な副作用が出現した際には他科との連携などにより十分な対応ができる体制を整えることが求められています。

さまざまな制約のあるクロザピンですが、重い症状に苦しむ統合失調症をお持ちの方が回復されるための一助として、住吉病院では、関係機関にご指導をいただきながら導入にむけて準備を進めています。

クロザピンについてはこちらをご参照ください(wikipedia)→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B6%E3%83%94%E3%83%B3

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