統合失調症のための集団認知行動療法


エマ・ウィリアムズ著・菊池安希子監訳「統合失調症のための集団認知行動療法」星和書店
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn640.html

統合失調症への認知行動療法の適用については、近年薬物療法と並んで主要な治療法と認識されるようになり、エビデンスが蓄積されつつあるとされています。弊ブログでも過去に何回か記事をアップさせていただきました。

認知行動療法では治療者とクライエントは対等なパートナーであるとされ、協働で症状のメカニズムやそこに関与している思考信念などの認知的特性を明らかにし、治療法の選択や評価を行なうとされます。認知の特性に気付き変化を求めることによって、次のようなメリットが生じるとされています。

1)幻聴や妄想など病気の症状を正常体験の延長線上にとらえる
2)詳細なアセスメントとケースフォーミュレーション(見立て)
3)認知行動療法は治療者とクライエントの協働作業で進んでいくため、相互の信頼関係をもとに、クライエントの不可解な体験について一緒に考えていくという介入が必要になります。

イギリスでは統合失調症の研究が進み、臨床心理士が認知行動療法を用いて統合失調症の治療に積極的に関わっているようですが、クライエントに対する専門家の数が少ないため、より多くの患者の対応ができるようにということで集団認知行動療法が開発されたということのようです。

この本は臨床現場における多職種アプローチにおいて使用しやすいように、「心理学的介入(理論と実践)」「アセスメント」「心理学的介入プログラム」で構成されています。「介入プログラム」では5つのモジュールを合計28セッションで行うように設計されています。
第1モジュール:導入と準備
第2モジュール:個別分析
第3モジュール:陽性症状の理解とマネジメント
第4モジュール:精神健康を高める
第5モジュール:全体のまとめ
それぞれの各章にはワークシートや患者用資料が掲載されているので、それをそのまま活用できるようにもなっており、心理教育を行っている人たちにはとても有用な構成です。

日本では統合失調症の妄想や幻聴に介入しないという態度が広がっているところもありますが、本書のようなマニュアルを用いながら統合失調症治療に心理的介入が模索されていくことになるでしょう。統合失調症をお持ちの方への認知行動療法的アプローチに携わる治療者には必須の1冊と言えるかもしれません。

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。