統合失調症の認知機能障害をはかる

「人生、ここにあり!」上映会&「やればできるさ!メッセージ大会」
日時:2012年2月11日(土)-12日(日) 於:山梨県立大学飯田キャンパス講堂
前売り参加券発売中 詳しくはこちらから→http://yarimashoukai.blogspot.com/

先日読んだ精神科治療学 第26巻12号は、《今月の特集:脳の機能と統合失調症―新たな診断と治療への展望―II》でした。

http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo01/bo0102/bn/26/12index.html

次の論文が目にとまりました。
住吉太幹、兼田康宏他:認知機能評価システムの構築―MATRICS―CCB―J, BACS―Jおよび社会機能測定法について―。
この論文によれば、統合失調症など精神疾患における認知機能障害は転帰への影響が大きいとされその測定法の確立が望まれる、とされている中で、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)やMATRICSコンセンサス認知機能評価バッテリー(MCCB)などが作成されて、機能リハビリの有効性研究や技法開発に利用されており、そしてこれらの評価尺度は日本語版も整備されてきており、就労を含む社会的な予後を予測できるのではないかとも期待されているそうです。そして機能の測定法についての概説がかかれています。

認知機能の評価においては、以前はいくつかの検査を目的に応じて組み合わせ(神経心理学的テストバッテリー)ていましたが、これは通常専門的かつ高価でしかも時間を要していました。そこで,統合失調症患者の認知機能を幅広く簡便に評価し得る尺度として統合失調症認知機能簡易評価尺度(The Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia;BACS)がKeefeらによって開発されました。この評価法は次の認知機能分野を判定するものです。

1.言語性記憶
2.ワーキング・メモリ
3.運動機能
4.注意
5.言語流暢性
6.遂行機能

これは所要時間約30分と実用的な認知機能評価尺度と思われています。当院ではIPS援助付き雇用を利用される方でお同意をいただけた方には兼田らによる日本語版BACS(BACS-J)を研修を受けたスタッフが行わせていただき、その結果をご本人と共有してその方の比較的得意とする認知機能のあらましをつかみ、希望される働き方についての工夫をご一緒に考えるためのきっかけの一つとしています。

MCCBは、FDAによって薬剤による認知機能障害の改善を評価する方法として推奨され、世界標準の評価法の一つとされています。MCCBの日本語版の開発は、東北大学グループを中心として行われており、このことを臨床で活用することにより認知機能障害の改善評価に貢献すると期待されています。

1.処理速度
2.注意/覚醒
3.ワーキングメモリ
4.言語学習
5.視覚学習
6.推論と問題解決
7.社会・感情認知

なぜこういった評価をしなくてはならないのか、といえば、薬の効果判定に使用したいというものですが、以下のような疑問は残っています。。(1)認知機能の評価として、これまで注意や記憶などの限られた機能が対象とされているが、社会認知、自我機能や病識などを支えている自己認知、さらには意志などについても対象とすべきである。(2)これまでは認知機能障害の量的異常についての検討が主であったが、質的異常、すなわち特異性についていかに評価するか、(3)認知機能障害と症状との関連、(4)臨床検査としての実用化の問題(標準化・簡便化など)、(5)統合失調症の気分障害(たとえばアンヘドニア)は認知機能と連動しているのか、といった疑問です。

最近は認知機能の評定法に加えて生活機能向上や地域社会での適応などの評価尺度が重視されてきており、認知機能評価法と連動した社会機能・適応評価尺度などが注目されています。そして統合失調症をお持ちの方の治療・支援をさらに前進させるためには神経心理学的検査で測定される認知機能のみならず、その診断名をお持ちの方の社会復帰の評価もターゲットとした治療研究のさらなる発展が望まれます。

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。