脳を守るための精神科薬物治療

大阪精神医学研究所の菊山裕貴先生が書かれた「脳を守るための精神科薬物治療」をNPO法人世田谷さくら会様より入手しました。

統合失調症は再発を繰り返すと脳の体積が減るとされており、特に体積が減りやすい部位は二つあります。それは右の前頭葉と左の上側頭回(側頭葉の一部)です。
前頭葉は意欲、上側側回は聴覚を担当しており、前頭葉の体積が減ると意欲が低下していわゆる陰性症状になりますし、上側頭回の体積が減ると聴覚問題(幻聴)が出現して陽性症状が出現するとされています。そして、統合失調症をお持ちの方では前頭葉でドパミンが少なすぎ、上側頭回でドパミンが多すぎることがわかっています。ドパミンは少なすぎても多すぎても神経細胞がダメージを受けて脳の体積が減り、そのことで症状が起こされるというわけです。したがって、適切な薬物療法とはドパミンが多い上側頭回ではドパミンを生理的に正常な量に下げ、ドパミンが少ない前頭葉ではドパミンを生理的に正常な量へと上げる処方をするということになります。

かつての薬(第1世代抗精神病薬)は、ドパミンが多い上側頭回でのドパミンをブロックすることによって陽性症状を改善することができましたが、前頭葉でのドパミン低下を改善できませんでした。
新規抗精神病薬はドパミン以外の脳内物質に対する作用も持っており、間接的に前頭葉のドパミンを増やすことが可能になっているとされていますので、第2世代抗精神病薬ならば、脳神経を保護することが可能であると、菊山先生は書かれています。
ただし、脳神経を保護する効果を得るためには一つ条件があります。それは必ず新規抗精神病薬を単剤で、かつ適切な投与量で使うことです。薬の量が多すぎると神経保護作用は失われてしまいます。また、2種類以上の抗精神病薬を併用した場合にも神経保護作用は失われることが報告されており、神経細胞の脱落が進んでしまう可能性があるそうです。つまり多剤大量療法で患者さんがおとなしくなっても、それは鎮静されているわけで、病が改善していることとは違った方向性にあるということです。

住吉病院では、精神科薬剤管理指導業務を通じて、入院しておられる方々の薬物療法改善を試みてきました。かつて、クロルプロマジン換算量で1日一人当たり平均900mgに達しようとしていた投与量は、最近では500mgの半ばまで減量されました。それに伴い、自分らしいプランニングを作り、病院を離れ、医療や福祉の範囲から生活範囲を拡大することも可能になってきています。社会でのさまざまな刺激により、脳機能の活性も改善されるような気がします。

菊山裕貴「脳を守るための精神科薬物治療」ご購入希望の方はこちらをご覧ください→http://setagaya-sakurakai.org/?p=39
住吉病院では、精神科専門薬剤師によるお薬相談・セカンドオピニオン外来を開設しています。詳しくは住吉病院ホームページから「薬剤師外来」のアイコンをクリックしてください。

薬剤師外来

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