抗うつ薬によるactivation syndrome

気分障害をお持ちの方のうつ状態への薬物治療としては抗うつ薬が用いられるのが一般的です。

かつて、うつ状態の方が抗うつ薬を飲んだときに起こる興奮・中枢神経刺激症状は、ふつう”躁転”=双極性障害の躁状態の発現として理解されてきました。これは三環系抗うつ薬の方が、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)より起きやすいといわれてきました。

SSRIは、有効で安全性に優れた「使いやすい」抗うつ薬という認識でありましたが、その一方で、従来型の抗うつ薬では注目されなかった副作用としてアクチベーション症候群(activation syndrome)の存在が指摘されるようになりました。

SSRI投与中の方に下記の症候が出現すると、人格障害やうつ状態の悪化とみなされやすくなるといわれています。
不安・焦燥感、自傷行為、パニック発作、不眠、易刺激性、敵意、衝動性、アカシジア、軽躁、躁状態 (Nikkei Medical 2006.10:172-173)

投与初期や用量変更時などにみられる中枢神経系の刺激症状というわけですが
厳密な定義、診断基準、対処法は確立していません。

一応原因薬剤の減量・中止、対症的には、ベンゾジアゼピン、気分安定薬、非定型抗精神病薬やトラゾドン投与が有効とされています。非定型抗精神病薬とトラゾドンにはセロトニン2受容体の阻害作用があるので、SSRIによるセロトニン系の賦活への対策としては薬学的な理屈に合っています。

精神神経学会の機関誌には以下のようなこの症候群への考察が掲載されています。

田中輝明、井上猛、鈴木克治ら:抗うつ薬によるactivation syndromeの臨床的意義-双極スペクトラム障害の観点から-。精神経誌109(8):730-742,2007

Activation sydrome は、抗うつ薬による自殺関連事象で問題提起されましたが、現在は話題性ゆえに概念が一人歩きし、妥当性への検証がなされていない。副作用なのか、もともとの素因が抗うつ薬によって活性化されたものなのかもはっきりしません。そもそも操作的診断基準の「うつ病」は広く捕らえられがちで、それにともなって抗うつ薬が処方されている。今後は改めて双極性障害の概念を見直す機会かもしれない。

財団法人 住吉病院の求人情報はこちら

(wrote:財団法人 住吉病院