どうすればよかったか?

精神保健福祉の関係者の間で話題となっている、藤野知明監督の映画「どうすればよかったか?」をようやく観てきました。小さな映画館でしたが、チケットはすべて予約でソールドアウトとなっていました。

まだ上映中なので、あらすじはざっくりとしかお書きできませんが、とある北の街に居を構えるご家族の中で、精神的な困難を体験されているお姉さまと、そのご両親の日常について、ご本人のごきょうだいである監督が20年にわたって記録したドキュメンタリー映画です。

なお、藤野監督は「この作品は姉の統合失調症発症の原因を追求するものではない」そして「統合失調症の症状を紹介するものもない」と冒頭テロップで明言しています。

医師であり研究者であるご両親のもとに生まれた監督のお姉さまは、聡明に育ち、ご両親の影響によってか医師・研究者を目指し医学部に進学されましたが、ある日を境に事実とは思えないことを話し始めました。言動からは精神疾患(おそらく)統合失調症が疑われましたが、医師である父と母は病気だと認めず、彼女を精神科受診から遠ざけました。「病気であれば早く治療した方がよいのではないか」と感じた藤野監督は両親を説得しましたが治療に結びつかないまま、実家を離れます。そして家族の中での閉じた世界での暮らしは20年以上に及びました。おとうとである藤野監督は映像制作を学び、お姉さまが精神的困難を抱え始めてから18年後、実家に帰省するたびにご家族の様子をカメラで記録し、ご両親と話し合い、お姉さまに語りかけ続けましたが、突然の行方不明などがあってご両親は玄関に鎖と南京錠をかけてしまうようになりました。それに伴ってお姉さまばかりかお母上も外に出ないような状況になりました。

この間に何回もお姉さまがカメラの中に登場されます。緊張と他者との境目に敏感なご様子、それでも、お正月などに御膳を一家で囲むシーンなども記録されています。ご両親とお姉さまの間にあるつながりは、他者にはわからない何かがあるようにも思えました。

長い長い時が過ぎたころ、転機が訪れました。お母上が認知症を患われたのです。そしてご両親とお姉さまのバランスが崩れ、お母さまは施設に行かれてお姉さまは入院して治療を受けました。3か月後に戻ってきたお姉さまは話も通じ合うようになりました。カメラに向けてピースサインを何度か繰り返されました。長い嵐が抜けた凪、のような心持のお顔になりました。

その後、お姉さまは悪性腫瘍に罹られて、お母さま亡き後にこの世を去られました。監督は残されたお父さまに尋ねます。「世間体から精神疾患を隠したかったのか?」「もっと早く治療したらよかったのではないか?」そして「どうすればよかったか?」とお父様に、ご自身に、そして私たちに問いかけています。ご家族を批判するつもりも、一度だけ受診した際に「病気ではありません」と言ったとされる(真偽は映画ではわかりませんでした)医師を責めることもありません。それでも、お姉さまが病を得るに至った心中はどのようなものであったのか、生前に尋ねても返ってこなかった答えを監督は探しているようでした。

大切な家族のために何かしたい、でも何もできない。そして、長い道のりの最後に残った「なぜ?」という後悔の念が藤野監督をしてこの映画を発表した動機であったのかもしれない、と思いました。過去と他人は変えられない、といいます。この映画に出てくる人はそれぞれに思いやりを持ってつながり方を模索し続けていたのだと思います。その上で「どうすればよかったか?」と問うているのです。

上映が終わってからも観客は、なにか感想を述べあうでもなく席を立っていきました。私は今もまだ問いかけを心の中で反芻しています。山梨県では上映されていませんが、ご興味のある方はどうぞご覧ください。そして自身と、周りの方と語りあいましょう。

「どうすればよかったか?」ホームページ https://dosureba.com

 

 

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