RADAR試験における質的調査

https://sumiyoshi-kaisei.jp/blog/2024/05/15/post-74917/ のブログで触れた、MoncrieffらのRADAR研究の結果は2年後の再発率や再燃率に関しては華々しいものではありませんでしたが、この試験における参加者の抗精神病薬の減量または中止における経験について調査された研究がありました。

Morant N,et.al.:Experiences of reduction and discontinuation of antipsychotics: a qualitative investigation within the RADAR trial.eClinicalMedicine 2023;64: 102135 Published Online 28 September 2023
この論文もアクセスフリーで読むことができます⇒https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2023.102135

ちなみに、RADARのRCTでは、126人の抗精神病薬を服薬中の方々を募集し、精神科医とともに24ヵ月間の減量プロトコールに基づいた抗精神病薬の漸進的かつ柔軟な減量と中止の可能性を監督する減量介入が行われました。直近1ヵ月間にメンタルヘルスのクライシスを経験したり入院した方、担当医が重大なリスクがあると判断した方、法的に服薬が義務づけられている方は除外されました。そしてRADAR RCT研究に組み込まれた方で、24か月の追跡調査後に、試験中に抗精神病薬を減らしたり中止したりした26人を対象に、30~90分間の半構造化面接が実施され、データは主題分析を使用して分析され、結果は定性的に報告したものがこの研究ということになります。

参加者の大半は、用量を減らすことで抗精神病薬の副作用(主に精神の混濁、感情の鈍化、鎮静)の改善がみられ、社会的機能や自己意識にいくらか良い影響があったと報告しました。ただし、半数以上が精神病症状や耐えられないレベルの感情の激しさなど、メンタルヘルス領域の悪化を経験し、9 名は精神病の再発を経験しました。

文中には「感情の激しさへの挑戦」という項目があり、前述した副作用の軽減は多くの人に利益をもたらしましたが、抗精神病薬の減薬が進むにつれて、感情の激しさ、生々しさ、「リアルさ 」はしばしば困難なものであったり、複雑な恵みとして経験されたりしたとあります。抗精神病薬を減量することは、生活上のストレスや困難な出来事を和らげる感情的な緩衝材を失うことであると表現する人もいました。気分の落ち込み、不安の増大、強い怒りや後悔の感情が描き出されたり、思考がより明瞭になり、感情が戻ってきたことで、メンタルヘルスにおける困難について再びかみしめ、なげき、喪失感を感じるようになった人もいたとあり、減断薬の旅路が、単に脳内の化学物質の動向について考えればよいということでない、という私たちの感覚と同じようなものと思いました。

また、さまざまな困難の対処方法には、医療的なものでないものが多く含まれることも記載されており、私が住吉病院にやってきた年に参加したWRAP®ファシリテーター養成研修で導きを受けた方から「あなたはパワーと薬の知識があるから、WRAP®で出会った方々が薬を減らして自律的な生活が回復できるようなファシリエーションができると思う」と(たぶん)言われたことを思い出しました。

参加者の中には減量プロセスに熱心に取り組み、再発などの困難にもかかわらず、薬物、用量の最適化、精神的健康の管理方法について新たな視点を身につけた方もいた一方で、減量について曖昧な態度をとったり、全体的な影響が少なかったりする方もいました。Morantらは結論として、2年間にわたる抗精神病薬の減量経験は、減量プロファイル、減量効果、個人的なモチベーションや関与のレベル、処方者との関係などのバリエーションによって形成されたダイナミックで多様なものであったこと、再発のリスクや課題があるものの、臨床的指導のもとに行われた減薬にエンパワーされたと経験する人もいたと報告しました。臨床医は調査結果を用いて利用者に情報を提供しながら、柔軟に協力することで抗精神病薬の最適な用量を確立することができる可能性を強調していました。