再発リスクを最小限に抑える抗精神病薬治療の漸減法

https://sumiyoshi-kaisei.jp/blog/2024/05/15/post-74917/ のブログで書きましたが、MoncrieffらのRADAR研究の結果からもわかる通り、抗精神病薬の減薬断薬についての方法論はなかなか難しいとされていますが、Horowittzらは2021年にこのような論文を発表しています。

A Method for Tapering Antipsychotic Treatment That May Minimize the Risk of Relapse – PubMed (nih.gov)

【抄録】抗精神病薬の服用中止のプロセスは再発と因果関係があり、中止後も持続するドーパミン過敏症などの神経適応と関連している可能性があります。したがって、抗精神病薬の服用中止時の再発リスクは、より緩やかな漸減によって最小限に抑えられる可能性があります。動物実験、遅発性ジスキネジアの観察、抗精神病薬の服用中止後のこの期間における再発の集中などから、抗精神病薬への曝露に対する適応が服用中止後数か月または数年間持続する可能性があることを示唆する証拠があります。さらに、PET イメージングでは、抗精神病薬の用量と D2 受容体遮断の間に双曲線関係があることが示されています。したがって、抗精神病薬を減らす場合は、徐々に(数か月~数年かけて)かつ双曲線的に(D2 遮断を「均等に」減らすため)行うべきである:つまり、抗精神病薬の直近の投与量の 1/4(または 1/2)に減らすことで、 D2 遮断の約 5(または 10)パーセント ポイントの削減に相当し、3 ~ 6 か月の間隔で、個人の耐性に合わせて段階的に(総投与量が減少するにつれて、削減の規模がますます小さくなるように)減らします。患者によっては、毎月最新の投与量の 10% 以下に減らすことを好む場合があります。このプロセスにより、根本的な適応が解消される時間が得られ、中止時の再発のリスクが軽減される可能性があります。完全に中止する前の最終投与量は、中止時に D2 遮断が大幅に減少するのを防ぐために、治療量の 1/40 程度にまで減らす必要がある場合があります。この提案は、ランダム化比較試験でテストする必要があります。

本論文のFig.2には以下の図が表示されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33754644/#&gid=article-figures&pid=fig-2-uid-1

※D2受容体占有率に対する抗精神病薬の用量の直線的または双曲線的減少の効果
(A)ハロペリドールの投与量とPETにおけるD2ドパミン作動性受容体の占有率(%)との関係
(B)ハロペリドールの直線的な減少は、D2占有率において双曲線的に大きくなる変化をもたらし、D2占有率の55.7%ポイントという最大の減少は、投与量が1mgから0mgに減少したときに起こる
(C)ハロペリドール投与量を双曲線的に減少させると、D2ドーパミン受容体占有率も線形に減少する(この図ではD2占有率の20%ポイントの間隔にしている)。この場合の用量は、4.4mg(D2占有率80%)、1.2mg(D2占有率60%)、0.50mg(D2占有率40%)、0.18mg(D2占有率20%)に相当する。

Horowitzらが提案しているのは、一定用量毎の減量(図の右上:B)ではなく、図の左下:CのようにD2受容体占有率の変化量が一定となるような減量法です。D2占有率の変化量を一定に保つための減量法として、直近の用量の25-50%(D2受容体占有率の変化量にして5-10%の変化割合に相当)を3-6か月毎に減量する方法や、直近の用量の10%ずつを1か月ごとに減量する方法などが挙げられています。ただし、クロザピンやクエチアピンのように、半減期の短かかったり、D2受容体からの解離が速いとされる薬剤では、より注意が必要で、個々の反応に応じて6-12週間ごとにD2(またはコリン受容体、ヒスタミン受容体)占有率を2.5-5%ずつ減量することが提案されています。ちなみに、半減期がクロザピン程度(16時間前後)の薬としては、アセナピン・ブロナンセリンなどがあった気がします。また、ハロペリドールに半減期が近い薬剤(24時間前後)はリスペリドン・パリペリドン・ルラシドンなどがあるようなので、Fig.2が参考になるかもしれません。

この方法だと、高用量域では割と思い切った減量が可能な一方で、特に低用量域においては慎重な減量が求められることになります。ちなみに、わが国では「抗精神病薬の多剤大量投与の安全で効果的な是正に関する臨床研究」より、SCAP(safety correction of high-dose antipsychotic polypharmacy)法による減量プロトコールが提案されています。
※SCAP法では、抗精神病薬の減量速度を以下のように規定しています。
1回・1週当たりの減量は高力価薬[クロルプロマジン(chlorpromazine ; CP):100㎎との等価量が10 ㎎未満であるもの]はCP換算で50 ㎎以下の低力価薬(CP 100㎎との等価量が10 ㎎未満であるもの)はコリン性副作用の離脱を考慮してCP換算で25 ㎎以下としている。

臨床の感覚では「長期投与されていない方の場合は投与量削減は半量くらいまでは比較的何も起こらずにできる(過感受性の方はその限りにあらず)」「処方量が少なくなるほど慎重に減らさないといけない」「ほんのちょっと飲むことと全く飲まないことの間には大きな壁がある」と個人的に感じているので、上記のような言説は腑に落ちる気がします。

日本精神薬学会では、SCAP法に準じて減量を行った症例を収集し、減量や単剤化に成功した例やSCAP法にそぐわなかった例を集積し、事例集を作成するとともにこれらの事例からより有用性の高い抗精神病薬の薬剤別の減量方法の基礎を構築していくことを目的とした研究を募っていますので、結果に注目したいと思います。
https://www.js-pp.or.jp/drug-weight-loss-guidelines/

 

 

最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。