RADAR研究から学んだもの
- 2024.05.15
- 日記
Joanna Moncrieff らの行っていた、イングランドでの統合失調症とその他の再発性精神病性障害の患者における抗精神病薬の減量及び中止対維持治療(RADAR試験):非盲検並行群間無作為化対照試験についてLancet誌に発表されており、オープン・アクセスなので読んでみました。全文はこちらから読むことができます⇒Antipsychotic dose reduction and discontinuation versus maintenance treatment in people with schizophrenia and other recurrent psychotic disorders in England (the RADAR trial): an open, parallel-group, randomised controlled trial – The Lancet Psychiatry
抄録を見てみると、
バックグラウンド
抗精神病薬の維持投与は統合失調症治療に際して推奨されているが、副作用の負担が大きく、長期的な転帰に関するエビデンスは乏しい。モンクリフたちは、抗精神病薬を徐々に減量していく方法の有益性と有害性を、維持療法と比較して評価することを目的とした研究を行いました。仮説としては、抗精神病薬の減量は短期的には再発を増加させるが、社会的機能を改善させるというものでした。
方法
RADARはイングランドで行われた無作為化並行群間オープン試験です。参加者は18歳以上の再発性の非感情性精神病性障害と診断され、抗精神病薬を処方されている人々でした。過去1ヵ月間に精神衛生上の危機や入院を経験した人、主治医が自傷他害の可能性ありとみなした人、法的に抗精神病薬の服用を義務づけられている人などは除外されました。インターネットを利用した独立したシステムにより、参加者は臨床医が関与する段階的かつ柔軟な抗精神病薬の減量、または維持療法に無作為に1対1に割り付けられました。参加者と臨床医はどちらの治療に割り振られたかは知っていましたが、評価者はそれを知らされていませんでした。追跡期間は2年で主要アウトカムは社会機能尺度で評価された社会機能でした。主な副次的転帰は、入院を要すると定義された重度の再発でした。
結果
4157人がスクリーニングを受け、そのうち253人が無作為に割り付けられました。内訳は、男性168人(66%)、女性82人(32%)、トランスジェンダー3人(1%)で、平均年齢は46歳(22~79歳)でした。人種としては白人171人(67%)、黒人52人(21%)、アジア人16人(6%)、その他12人(5%)でした。減量の中央値は減量群で67%、維持群で0%であり、24ヵ月時点では33%対0%でした。24ヵ月の追跡では、減量群に126人中90人、維持群127人中94人が、社会的機能尺度(Social Functioning Scale)により評価されましたが、有意差は認められませんでした(p=0.86)。重篤な有害事象は、減量群で93件・49人に認められ、その主なものは精神病の再発による入院であり、維持群では64件・29人に認められました。
考察
このモンクリフたちの2年間の抗精神病薬原減量の前向き研究では、抗精神病薬の減量が再発を増加させることを認め、段階的でサポーティブな過程は社会的機能に影響を及ぼさなかったことが示されました。モンクリフたちは、このデータは、長期抗精神病薬使用の決定に役立つであろうと締めくくっています。この研究を計画したとき、モンクリフたちは抗精神病薬を徐々に減らすことで深刻な再発(入院のような)を防ぐことができると期待していましたが、結果はそうはなりませんでした。減量群の参加者は維持療法の人々と比較して、再発で入院する可能性が高く(25%対13%)、その再発は本格的な精神病の再発であり、一方で、抗精神病薬を減らした人には、これを補う可能性のある社会的機能の改善は見られませんでした。ただし、減量群の人たちも研究終了時までに社会的機能の悪化は見られず、この時点では両群の精神病症状も同様だったとしています。
この結果そのものは驚くようなものではなく、オランダで精神病の初発患者を対象に実施された Wunderink の初期研究の結果に似ています。Wunderink らは、18 か月の追跡調査で精神病の再発率が増加し、社会的機能に違いがなかったことを発見しましたが、さらに7 年間の追跡調査で初めて、当初軽減にランダム化された人々の社会的機能が改善し、再発が同率になったとしているそうです。
Guided discontinuation versus maintenance treatment in remitted first-episode psychosis: relapse rates and functional outcome – PubMed (nih.gov)
Recovery in remitted first-episode psychosis at 7 years of follow-up of an early dose reduction/discontinuation or maintenance treatment strategy: long-term follow-up of a 2-year randomized clinical trial – PubMed (nih.gov)
RADAR研究では、抗精神病薬の減量に割り当てられた人々に対して、精神科医によるより頻繁なモニタリング以外、特別な追加サポートは提供されませんでした 。しかし、どういったサポートがよいのかははっきりしていません。私たちの病院では医師の診療に加えて、精神科専門薬剤師による相談と減薬を目指している方々のミーティングを提供していますが、どちらもまだ十分にご利用いただいている状況ではありません。より具体的で有益なサポートが判明することを願いながら、今後も勉強していきたいと思います。ご紹介した研究でも抗精神病薬を中止したり半分以下に減らした人のうち 70% 位の人々は は深刻な再発がなかったということですので、さまざまなチャレンジをされている人々の生の経験に、より一層、耳を傾ける必要があると感じました。
最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
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