ゼロから始める就労支援ガイドブック

芳賀 大輔、金川 善衛、稲富 宏之編「ゼロから始める就労支援ガイドブック」MEDICAL VIEW社を読む機会をいただきました。

障害者の就労支援現場に携わる全スタッフ必読の一冊」と帯書きになる通り、実践家・研究者, 医師, 作業療法士, 雇用事業主など, 業界の第一線で活躍する執筆陣による就労支援のプロセスや知識、具体的な支援方法等が集約された実践に役立つことを意識された本とまずは感じました。

 私は精神的な困難の経験を持つ方々が働くことを支援していますので、メンタルヘルス分野に関するチャプターを中心に読ませていただきました。

 1章の中では「就労支援プロセス」ではこれまでの訓練モデルへの疑義が強く打ち出されており、ただ就職することではなくディーセントワーク(働きがいのある人間的な仕事)を目指すべきであると記されています。そこに続く「職業準備性ピラミッド」ではさらに、「就職や安定した職業生活継続のための要件は、職場や支援機関などの環境条件により大きく異なるため、就職するための絶対的な基準を定め、その要件が個人の側に準備されているかどうか画一的に判断することはできない」と書かれており「就職の要件が相対的であるにもかかわらず、職業準備製ピラミッドで示された健康管理や生活管理、対人技能などを障害のある利用者が越えなければならないハードルであるとしてとらえるのは倫理的にも実践的にも間違いである」と言い切っています。
 これまでのメンタルヘルスの分野でのレディネスモデル一辺倒の支援理念を覆そうとする意欲に満ちた文章でした。

 さらに2章に入ると「ジョブマッチングを含めた職場開拓(職場探し)の方法と実際」では、実践に裏打ちされたと支援者とご本人の就職に向けた歩みについてのリアルが述べられていて、読んでいるだけで楽しくなりました。続いて「アセスメントを就労に生かす」でも「アセスメントは支援者が一方的に行うものではなく、利用者の希望や意見を取り入れた共同作業である」と強調しています。続く「ナチュラルサポート」においてもそれぞれの人の自立度で変化しアップデートし続けるということが記載されています。
 そして、個人的には「IPS(Individual Placement and Support:個別職業紹介とサポート)」についてきっちり紹介されていたコラムがあり、なんとそのあとの「就労支援において使用可能なアセスメントツール」ではご本人や環境の評価を目的としたツールの後にIPSフィデリティ尺度の紹介がありました。他人の評価をしている支援者だって評価されるべきであるという、普通の考え方にすっきりしました。

 第3章は具体的な就労支援の実際が紹介され、概念と事例を盛り込んで、臨場感のある仕立てになっています。IPS援助付き雇用を念頭に置く身とすると、重複障害(精神疾患とアディクションの困難を合わせ経験されている方)の支援についての記述があるとさらによかったと感じました。

 最後まで読み通してみると、「編集の序」にある通り、実践のための手引き、マニュアルとして最適なものであり、「就労支援を学ぶ初学者にとって有益となる」という言葉を表現しようとする多くの実践者の方々による”情熱の書”だと思いました。個人的には初学者だけではなく、初学者を指導しようとする現場の実践者にもぜひ熟読し内容を自らの身につけてもらいたいと感じました。

 

 

 

最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。