新生

住吉病院は1970年に県内初の院内断酒会を開始して以来、アルコール依存症に対する治療を発展させてきました。

1979年にはアルコール治療専門の病棟「ひまわり棟」を開設し、それ以外の精神疾患をお持ちの方とは異なった入院治療プログラムを提供し始め、以来、1992年にはアルコールセンターを開設し専門性を高めてきました。

昨日と本日にかけて、住吉病院は新たに建築した急性期病棟と外来に引っ越しをしました。これに伴って、これまでの外来、2病棟、アルコールセンターは使われなくなります。今般の新病棟では、新病棟3階で従来のアルコールセンターで行われていた治療方針を継続しながらも、新病棟2階では急性期治療病棟として新たなプログラムによる活動を開始します。外来も一新し、ご利用の皆さまにより一層やすらぎのあるスペースであるように心がけました。引っ越しが終わって、空間になった(かつての)外来待合室や病室に立ったとき、私は自分自身のいろいろな記憶と対話しました。

約半世紀前、別々になったアディクションとそれ以外の精神科疾患をお持ちの方の病棟でしたが、年月が過ぎるとともに、アディクションとのかかわりの中から培われた回復/リカバリーの概念がようやく病院全体に共有されたものとして、ふたたび建物が一つになるということです。

山梨県におけるアルコール医療の歴史そのものでおられる松野理事長が、病棟引っ越し開始の日にお見えになり、新病棟の敷地の一角に立たれて新病棟を見渡されたのちに視線を移され、これまでのアルコールセンターをじっと見ておられました。先生は何も語られませんでしたが、そのお姿から私は、歴史の大きな流れとともにこの病院の伝統を形作られてきた先達諸氏の偉大さをあらためて感じました。

これまでの住吉病院の病棟編成はなくなるのではありません。そしてただ病棟が新しいところに移動するだけでもありません。いったん手放したものを取り戻すのでもありません。何かが変わり、何かが新たに生まれるのでしょう。そして伝統を引き継ぎ、新しいものにチャレンジするのは私どもスタッフのかかわりによってくるのだ、とあらためて強く感じました。

回復とは元に戻ることではなく、新生なのだとよく言われます。翻れば、新たな挑戦もまた回復の旅路の一つなのだということです。私どもの新しい外来と病棟での活動が、皆さまの回復/リカバリーにとり、新たに、そして引き続き、役立つものでありますように。


最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。