精神科入院者と喫煙行動
- 2012.10.07
- 日記
以前の病院で同僚として働いていた医師の論文がフリーアクセスになっているのを知りました。
安井正:精神科入院患者の死亡に関する調査。北里医学 26(6), 384-389, 1996
この論文は私立の一単科精神科病院において、1970年から1995年までの26年間の院内死亡411例を調査し、その死亡年齢と死因について検討したものです。411例の平均死亡年齢は61.9歳で、全国の平均死亡年齢72.5歳を明らかに下まわるものでした。この対象群の多数を占める統合失調症の診断をお持ちの方の平均寿命は一般より20%短いとされていますが、この病院のデータもほぼそのことを裏付けるものでした。死因順位は
第1位「肺炎及び気管支炎」
第2位「心疾患」
第3位「悪性新生物」
第4位「脳血管疾患」
第5位「自殺」
などで、その当時の一般人口の主要死因 ?@悪性新生物 ?A心疾患 ?B脳血管疾患 ?C肺炎および気管支炎 ?D不慮の事故及び有害作用 とは明らかに違っていました。
最近、山梨でタバコ問題について学ぼうという方々と出会う機会がありましたが、ニコチン依存に関しては一般的な精神科領域の関係者より意識の高い方が多く、アディクションへの支援を経験している職業にあるものとして、この問題においてリカバリーをしたいと思う人々へのサポートの期待が膨らみました。
Prochaska JJ:Smoking and Mental Illness Breaking the Link.N Engl J Med; 365:196-198, 2011
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1105248
ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンの論文を知りましたが、アメリカでは一般人と比較して喫煙する重症の精神疾患をお持ちの方は平均寿命が25年短く、喫煙と直接的に関連するガン、呼吸器疾患や心疾患に罹患するリスクが高く割合が高くなる一方で、ある種の抗うつ薬(例:フルボキサミン)や抗精神病薬(例:オランザピン)、抗不安薬(例:ジアゼパム)ほかの薬物の代謝を速める成分が含まれているため、薬剤の血中濃度が低下して治療効果が損なわれる恐れがあります。そのために精神疾患や合併症の一部が重症化するとされています。
個人的にも、皮膚感染症のために個室で過ごさざるをえなくなった方や、喫煙コントロール不能から入院された方が、禁煙を続けられた場合に、処方薬が十分に効果を発揮するのを少なからず経験しています。健康への影響だけではなく、喫煙する方は月収の大きな部分をタバコ代に費やしているとの報告があり、経済的な問題も大きいとされています。
アルコールや他の薬物を断つと決意された方への支援のノウハウは、精神科医療実践の中にだってあるのではないでしょうか。これからさらに勉強を深めていきたいと思います。
最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。
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