外来統合失調症者の寛解率における地域差

Haro JM,Novick D,Bertsch J et. al..:Cross-national clinical and functional remission rates:Worldwide Schizophrenia Outpatient Health Outcomes(W-SOHO) study.Br. J. of Psychiatry 199:194-201,2011

統合失調症をお持ちの方の転機には地域差があるとされており、過去にWHOで行われた研究でも低/中所得国のほうが高所得の国よりも転帰がよいという結果が知られています。その背景には社会文化的因子が予後に関係するという仮説が成立していますが、WHO今回はより個人的な背景も考慮に入れて37カ国で前向きに11,078名を追跡調査した研究を行いました。37カ国は6つの地域(北欧・南欧・欧州中東部・中南米・北アフリカと中東・東アジア)に分けられて分析されました。

臨床症状がCGI-SCHにより6ヶ月間一定の基準以上(すべての項目の評価が3点以下)に維持され、入院のない人を「臨床的寛解」とし、6ヶ月間良好な就労についていたり、家事に専業したり学生であったりする状況にあること、自立的生活をしている、社会的交流が良好である人を「機能的寛解」と定義しました。

3年間の追跡調査で全体に臨床的寛解にいたった人は66.1%、機能的寛解にいたった人は25.4%でしたが、臨床的寛解が最も高かった地区は東アジア(84.4%)、機能的寛解が最も高かった地区は北欧(35.0%)でした。寛解到達率の地域差は臨床的な特徴など個々の背景因子の差では説明がつきませんでした。

各地域で双方の寛解について予測性が認められた因子は、女性であること、最初に治療を受けた年齢が若いこと、罹病期間が短い、既婚、収入のある仕事をしていること、でした。CGI-SCHによる症状評価は、臨床的寛解に関連する因子ではありますが、機能的寛解には関連があるとはいえませんでした。

統合失調症における回復には、生物学的脆弱性や症状重症度以上に環境の因子が影響しているということもできるようにも見えますが、一般的には低~中所得国の病を得た方が治療の恩恵を得にくいと考えられ、各国における転帰を単純に比較することには困難があるかもしれません。たとえば国内の地域差についてはどうなのでしょうか。国内での地区別データも知りたいと思いました。

いずれにしても、働く習慣が身についていることが予後を改善していることは、臨床的にも社会的にもよい予後をもたらす可能性があることが示唆されたものと思いました。

Abstractはこちらで読むことができます→http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21881098

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