背番号88

花曇りの休日、午前中のピッチに背番号88はいた。新しいチームが始動する年度の初めの重要な試合だった。

今のチームに入ってからしばらくして、ポジションが変わり、なれない位置でもトレーニングを続けてきて、ようやく慣れ親しんだポジションに戻ることを許されたこの春だった。一度離れたポジションでの再挑戦は、メインのチームロゴのは入っていないトレーニングマッチ用のユニフォームを着て、ライバルとの争いに勝つことが求められるものだった。

前回の試合で先発したものの、良いパフォーマンスが示せなかった背番号88は、後半15分からの出場になった。先発にはライバルの選手が出場していたが無得点のまま試合がすすんでのことだった。別ポジションでの経験から、競り合いには強くなったが、強引なドリブルは少なくなっていた。押し込まれることも多い自軍にあって、チャンスは多くなさそうであったが、チームのために走り、ボールを受けて左右に散らしていくプレースタイルは以前にはないものだった。

左のサイドバックが敵陣に侵入してクロスを入れた。ファーに走りこんでいた背番号88の前にボールは上がったが、届かない、と思ったその時、ダイビングヘッドで相手ゴールのネットが揺れた。足自慢の選手が苦手としていたヘディングで初めて決めたゴールだった。彼はサイドバックに感謝して手をたたき、すぐにボールを拾いあげて次のプレーに移ろうとしていた。彼の得点はその1点だけで、チームは試合に負けた。

人生にはさまざまな困難があると知る機会はとても多い。その中で「今、自分にできることのベストを尽くす。」と思いながら、大好きなことのために努力を続けていく。そうして、たとえ思った通りの結果を得られない時期があっても、そのことを自分の糧として自分の大好きなことを続けるためにチャレンジを続けて行くことが重要なのではなかろうか。

試合が終わった背番号88にゴールのことをほめてみた。「あれくらいどうってことないよ」と話した笑顔の目には、明日への希望が見えているようだった。見上げたうす曇りの空には満開の桜が舞っていた。

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