ジンジャーファイト

プロ野球のシーズンも大詰めとなり、レギュラーシーズンでの優勝争いから、日本でもアメリカでもその国の年間チャンピオンを決める戦い=ポストシーズンが始まりました。

わが国では、昨日、セントラルリーグでレギュラーシーズン・チャンピオンの中日ドラゴンズが3位の読売ジャイアンツをクライマックスシリーズ・ファイナルで4勝1敗と圧倒し、パシフィックリーグのクライマックス・シリーズを勝ち抜いた千葉ロッテマリーンズとの日本シリーズ出場を決めました。

アメリカのMLBでも、リーグチャンピオンシップが戦われていますが、アメリカン・リーグではテキサス・レンジャーズがニューヨーク・ヤンキースに6―1で快勝し、球団創立50年目で悲願のリーグ制覇、そして、ワールドシリーズへの進出を決めました。

MLBでは、優勝を決めると、選手たちはロッカールームで互いにシャンパンをかけあって勝利の喜びを爆発させる「シャンパン・ファイト」が恒例となっています。長らく下位に低迷していたレンジャーズが球団史上初めてワールドシリーズに進むことを決めたのですから、チームの喜びはものすごいものであったろうと予想します。しかし、試合後のロッカールームで、シャンパン・ファイトの前に行われたのは、ジンジャー・エールをかける「ジンジャー・ファイト」でした。選手が全員で一人の選手のみにジンジャー・エールを浴びせたのです。

その選手とはジョシュ・ハミルトン選手。

1999年に素晴らしい才能をもってMLBに加入したハミルトン選手でしたが、これまで長い間ドラッグや酒におぼれたつらい過去を持っているそうです。ドラッグからクリーンになろうと、これまでに8回の更生施設入所歴があります。そこからのリカバリーへの努力によって彼は、少しずつ本来目指していた方向へと輝きを取り戻しながら進んでいるように見えます。しかし、まだドラッグやアルコールにスリップする可能性がなくなっているわけではありません。

だから、彼はチームがディビジョン・シリーズを勝ち抜いた時、彼はシャンパンファイトに参加しませんでした。彼はアルコールを摂取することによってまた依存症に引き込まれてしまうと知っていたからです。

周りの選手たちは彼の努力を知っていて、リカバリーを願っていたのでしょう。そして、チームのみんなが出した結論は「ジンジャーエールを使って喜びあう」ことでした。

アディクションから回復しようとしている仲間と喜びを分かち合いたい・・・・それは」メンタルヘルスで困難を経験した人とともに何かを成し遂げようとする人たちの中から出てきた自然な感情だったのかもしれません。それは障害者権利条約(2006)による「合理的配慮」のような差別をしないように本人と協議や交渉や調整によって、無理のない範囲で障がいのある人が困らないように工夫するという義務的なものではなかったと思います。

頑張っている誰かとともに喜びを分かち合いたい、という仲間への思いは「理に合う」ではなく「情に合う」ものであったのだと思います。

弱いチームであったレンジャースとアディクションからの回復の道を歩もうとするハミルトン選手。二つのリカバリーの物語に心が熱くなります。

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。