伝統の上に立つ

医局の棚にあった本の中から「住吉病院30年誌」を見つけて読んでみました。そして次のような一節を発見しました。

財団法人住吉病院設立認可申請書

この度別紙寄附行為に依り財団法人住吉病院を設立したいと思いますので民法第34条の規定により、御認可下さる様関係書類を添え、申請いたします。

                                           甲府市
                                           財団法人 住吉病院
                                            設立代表者 有泉 信

山梨県知事

 天野 久殿

 財団法人住吉病院設立認可申請書

最近、精神障害者の数は激増し、本県下に於ても、覚醒剤中毒患者を除いても入院し治療を必要とする精神障害者数は約二千名を超えると推算されている。然るにこれ等患者に対する収容施設は僅かに三百床足らずで現在1900名近くの患者は、野放し状態で未治療のまま放置されているのである。

これ等患者を未治療のまま放置するのは、社会的にも又個人的にも危険を内蔵しているのである。

かかる精神障害者の収容施設の現況に鑑み茲に当財団設立代表者有泉信が中心となり精神障害者の保護並びに治療を目的とする財団の設立を企図し不遇者の更生自立の母体とし社会公共の福祉の増進に寄與せんとするのが念願であります。


有泉信 先生

この法人の礎を築いてくださった創設者 有泉信先生の理念は「患者優先」と「公益」でありました。「30周年誌」のご挨拶でも、その本の刊行された1985年当時、経済の低成長時代を迎えながらも有泉信先生は「数年前から病院の運営は、追い風の時代から向い風の時代に移ったけれども、我々は建院の精神に則り、心を合わせて地域精神医療の為に全力を尽くさなければならない」と書かれています。

今年、弊法人は創立55周年の節目を迎えます。今の世にしてなお、みずみずしく私たちの心にせまる創始者の理念。本当に大切な理念は、代を継ぎ、多くの人の手を経てもなお、自らの足でその始まりの土地に立ち、そして世に広げていくものである、とあらためて身の引き締まる思いがしました。


最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。