インビクタス/負けざる者たち

大学時代、ラグビー部で同じ釜の飯を食べた同級生が新聞のコラムで絶賛していた映画を観に行ってきました。

それは「インビクタス/負けざる者たち」という南アフリカのネルソンマンデラ大統領の映画で、史実に基づいたものです。

1994年当時、翌年にワールドカップの地元開催を控えたラグビー南アフリカ代表(スプリングボックス)は、アパルトヘイト(人種差別)を世界中から糾弾され、対外試合を行うことができずに弱体化していました。しかも国民の多数である黒人層は支配層である白人のスポーツであるラグビー代表が負けることを望んでいたのです。

そんな中、白人政権に反抗した罪で30年間も投獄されながらも釈放され、民主主義的な選挙でついに大統領となった黒人のネルソン・マンデラは、就任後にそれまでのすべてを水に流し、復讐ではなく、白人と黒人が一つとなってともに新しい国家を建設しようと提唱しました。マンデラ大統領は、かつて自分たちをテロリストと呼び激突してきた白人警察官をSPにし、白人文化の象徴とみなされていたスプリングボックスを終了させようとする黒人の国家スポーツ評議会の判定を自ら出向いての説得によって覆して、代表チームをこれまでの名称・エンブレムで残そうとします。自分を支持する人々に白人への赦しを唱え、そのことを自ら実行してみせたのでした。

これまでの制度が終了した時、敵味方がなくなるという発想、それはラグビーを愛する人々がもっとも大切にしているノーサイドの精神です。マンデラ大統領はもともと白人のスポーツであったとしても、同じ国民なんだから代表チームを応援しよう、と呼びかけます。そしてスプリングボクスの主将フランソワ・ピナールは代表チームの選手に「スプリングボクスはただラグビーの代表なのではなく、国の未来のための存在である」と宣言するのです。このことこそがラグビーがラグビーたる根幹である理念「One for All, All for One-一人はみんなのために、みんなは一人のために」なのです。

そして大会前は下馬評に上らなかったスプリングボクスがラグビーワールドカップ初出場での決勝戦登場を果たし優勝候補のニュージーランド・オールブラックスと対戦したとき、マンデラは、グリーン&ゴールドのユニフォームを着、フィフティーンから送られたキャップをかぶって観戦にやって来ました。かつての憎しみの対象であったユニフォームを自ら身にまとうことで、国の未来をその身で示そうとしたのでした。そしてチームは激戦の末に奇跡とも思える優勝を遂げたのでした。崇高な理念は不可能を可能にすることを世に示した一瞬とも思えました。

私のかつてのチームメイトは”「One for All, All for One」は私の救急医としての意味を表現している”とコラムに書いてくれました。遠く離れたこの地で、私は同じ言葉を自分自身のよりどころとして仕事をしていますが、あらためてこころの芯を熱くすることができたと感じました。

自分の原点を思い出させてくれた小倉君、ありがとう。



最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。