アスペルガー症候群と統合失調症

高機能自閉症(アスペルガー症候群:AS)はシゾイドパーソナリティと同一視されていたりしますが、統合失調症とは認知機能の観点から差異があります。

加藤元一郎、林海香、野崎明子:アスペルガー症候群と統合失調症辺縁群における神経心理学的問題と脳画像所見。精神科治療学23:173-181

によれば、ASは認知機能の特性から対人関係の障害を起こすことがあり、興味や思考のある種の対象への極端なこだわりや柔軟性の欠如した行動、ステレオタイプな行動、こだわり症状(強迫的・反復的)、思考のゆがみが極端となると妄想的な様相をおびる時に統合失調症との異同が問題になることがあります。一部にはASと幻覚妄想のある統合失調症が混在するかのように見えるケースもあるとされています。

認知機能の特性から2つを区別することができ、神経心理学的所見においては、

ASでは非言語性学習障害(Non-Verval Learning Disablities:NLD)が指摘されており、言語的IQからかなり動作性IQが低下することが知られています。SPECTでは右頭頂葉外側・内側部の血流量低下があって、これは空間性ワーキングメモリ障害・視覚構成行為の障害と関連しているとされています。実際の臨床では、簡単な絵を描かせてみたり、無意味ないしは抽象図形の模写を行わせると障害は明らかになり、また、大脳皮質の右上側頭回の機能低下により、他者の視線や意図の認知障害にいたり、このことから他者からの視線情報の処理に問題が生じるとされます。視線から他者を認知することによって注意の共有が可能となり、他者の心の推測(TOM)、共感などのより高次の社会性認知が発展するはずですが、ASではそれが障害されているということになります。
ASにおけるアイ・コンタクトと対人関係の障害を理解するうえでは、この所見は重要です、しかし一方で、流動性知能(新たな推論や新奇の問題解決能力をさす知能)は優れているとされます。これは前頭葉機能や遂行機能と深くかかわっています。

これに比較して統合失調症では、神経心理学的所見の主たる所見は両側前頭葉の機能低下です。このことによって非特異的な全般性の機能低下や遂行機能の低下が指摘されています。NLDの傾向はないとされています。

対人関係で似ているように見える2つの状態ですが、認知機能の所見からも、2つの障害をお持ちの方を並列にして同じトレーニングを提供することの困難さについては、このような理論的な背景があることは知っていたほうが良いと思います。

財団法人 住吉病院の求人情報はこちら

(wrote:財団法人 住吉病院