心理教育ってなんだ?

私は日本心理教育・家族教室ネットワーク(The Japanese Network of Psychoeducation and Family Support Program:JNPF)の運営委員兼インストラクターなのですが、2025年2月2日にインストラクター限定企画研修があって、同僚スタッフと参加してきました。

心理教育・家族教室ネットワーク – The Japanese Network of Psychoeducation and Family Support Programでは、心理教育は次のように定義しています。

<心理教育とは>

1)精神障害やエイズなど受容しにくい問題を持つ人たちに(対象)
2)正しい知識や情報を心理面への十分な配慮をしながら伝え(方法1)
3)病気や障害の結果もたらされる諸問題 ・諸困難に対する対処法を習得して
  もらう事によって(方法2)
4)主体的に療養生活を営めるように援助する方法(目標)

となっていますが、実際の運用上は
※単に知識や情報を伝えるのではなく、困難を乗り越える技術や現実に
 立ち向かう力量を修得すること(empowerment)や、困難を解決できる
 という自身(self-efficacy)を身に着けること、自己決定、自己選択ができる
 ことを目指す。

とされています。

今回の問題提起されたのは次のようなことです。

・JNPFの定義は2004年のものであり、20年経過していて、その間
 精神医療や精神医学を巡る状況も変化してきている。
・今後を考えるために、この定義の1)~4)に関して再考したい
・その上で改めて全体を振り返る

というものでした。

1)の「受容しにくい問題を持つ人たちを対象」については、アメリカ連邦保健省薬物依存精神保健サービス部(SAMHSA)のツールキットには、当事者・家族は「治療の対象」ではなく、「要請されて参加する協力者」であると明確に述べられている。あるいは「チームの一員」とされているという指摘、そもそも「受容することが前提」でよいのか、という提起がありました。同部によるツールキットにも「知識を共有して『一緒に』精神症状に対処するこの協働的アプローチは、心理教育モデルの中核で、この協力関係がリカバリーと社会的成功への本質である」とあるそうです。
 また、主に統合失調症をお持ちの方とそのご家族を対象としていた心理教育自体、診断にとらわれない心理教育の在り方についても検討する必要があるとされました。

2)「正しい知識や情報を心理面への十分な配慮をしながら伝え」ることについては、「正しい」ってなんだ、ということを吟味することが提案されました。すなわち、専門や研究に基づく情報とご本人ご家族の経験による情報の力感に差があってよいのか、統合失調症に関する情報もアップデートされているし、「よくわかっていない」ということがきちんと伝わっているのか問われました。ストレス脆弱性モデルは精神疾患だけが対象ではないものであることも強調された方がよいと提案されていました。個人的にはストレス脆弱性モデルは「病気の原因を説明するモデル」ではないので、これは妥当であると感じました。また、情報は「伝える」ではなく「共有する」tおいう双方向性を強調する必要があると提案があり、これもしっくりくるものでした。

3)については「対処方法を修得してもらう」という表現についての提案がありました。私たちのミーティングの実際では「トレーニング」や「習い事」の側面は少なく、「正解はないかもしれないけれど、いくつかの提案の中から一つか二つを選んで試しにやってみる」という方向性なので、これも、言い方を変えれば私たちが「定義のままにやっていない」ということが確認できました。同じ文脈で「医療トラウマ」についての提起もありました。

4)「主体的に療養生活を営めるよう援助する」についてはいう点については、「療養生活」ではなく、市民の一員としての生活を志向すること、「援助する」が「するーされる」の権力差を生じさせないために協働関係をもち、そのためには1対1でない関係性を考えることも必要と思われました。

大きな枠組みとして、「病気/健康」「患者/家族/支援者」のような区分けによる立場または能力の優劣のような二元論に基づく対立関係からの脱却を心理教育についても行い、心理教育の枠組みをより良いものに脱構築していくことを考えていくとする対話を行う研修でした。

日ごろのご家族のつどいなどの場面のことを思いだしながら、さまざまな立場から見えている景色の違いを共有し、余韻(もやもや)のある集会でした。最後に”Psychoeducation”を「心理教育」と訳することの影響についての話が出てきたときに、先日の精神科リハビリテーション学会での発表を思い出したのでした。

来年の心理教育・家族教室ネットワークの研究集会は甲府で開催される予定になりました。日時・会場はもとより、大会テーマもこれから決めていきます。近々、大会運営委員会を立ち上げようと思っています。どんな大会になりますか・・・皆さま、楽しみにしていてください。

 

  

最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。