TFT思考場療法

思考場療法(Thought Field Therapy、TFT)とは、アメリカの心理学者ロジャー・キャラハン氏が1970年代の終わりから発見し開発した、鍼のツボをシンプルにタッピングするという心理療法の一つです。私は阪神淡路大震災の後にトラウマを得た方の回復のためになにかできることはないか、と思って、友人であった今は故人の和歌山で開業されていた小児科医・高崎吉徳先生の主催されるワークショップで学ばせていただきました。あれから20年ほどが過ぎ、先日、山梨精神医学研究会で日本TFT協会代表の森川綾女先生にご講演をいただくことができました。

その治療機序は一般的な科学的なものとは感じられず、開発者のキャラハン氏が、既存の心理療法を批判したために、TFTは「まがいもの」としてアメリカの心理学の学会からは敵視されるようになりました。キャラハンやTFTの支持者たちは、TFTを支持するエビデンスは少しずつではあるが出始めていると主張しているそうですが、それらは査読されていない、ケース報告に基づくものであるとされています。

TFTのセルフケアは、自分で身体のツボをタッピングするわけなので、一度習えばお金はかからず、副作用もほとんどなく外来診療でも簡単に使える方法のように思われます。技法をごく簡単に説明すると、身体の経絡に対応するいくつかのツボを、疾患や症状等に応じて定式化された順序(ホロン)に従って、自分自身の指で5~10回ずつタッピングし、眼球をあちこちに動かしたり、ハミングしたりするという行動の処方があり、これをアルゴリズムと呼んでいますが、あやしいと思わせるのに十分です。これらの手順は本にも書いてありますし、一部は日本TFT協会のHPでも公開されています。

日本TFT協会http://www.jatft.org/

これらのアルゴリズムで効かない場合もあり、そこからは上級クラスの専門家にカウンセリングしてもらうのですが、上級クラスになると、TFT診断(TFTDx)からさらにはボイステクノロジー(VT)という奥儀に至るというさらにあやしそうな技法が登場しますが、残念ながら私はそれらは学んでいません。

私は、臨床で特定の疾患をTFTで治療するということはありませんが、薬が効かない、または使いたくないという方において頓用薬のように「辛い時に備える」ための代替治療という位置づけでお勧めしてみる場合があります。有効な方にはとてもいい印象を持っていただけるようです。また、減薬断薬を望んでおられる方々の場合にTFTDxでも述べられている、心身に影響を及ぼすような食生活(TFTではこういったものについてもご本人と一緒に考える癖がつきました。TFTではカフェインや白砂糖、コーンスターチなどがエネルギーに混乱を与えやすい物質(エネルギートキシン)であると言われているのですが、漢方的な考えからも、あながち間違っていないような気がしています。

講演会でトラウマ(複雑性PTSD)のアルゴリズムを行いながら、私は私にTFTを教えてくれた「赤いスポーツカー」の友人のことを思い出していました。彼はバイクに乗って交通事故に会い、車いす生活になっていたのですが、彼は赤い車いすに乗り、それを「スポーツカー」と称していたのでした。障がいを持っていることは人生の一部であるにすぎない、そのことで人の価値が下がることはないと私に強く刻んでくれた方でした。ユーモアを忘れず、素晴らしい行動力でTFTを日本に普及させ、VTの資格を取った最初の日本人でした。まだバリアフリーが普及していなかったころ、彼と一緒に参加した研修会の会場はエレベーターのない場所がありました。私たちは彼とは「お願いされた時にだけ手を貸す」という関係を大切にしていたので、階段を前にお願いされて友人とみんなで彼の車椅子を担いで降りたときに、彼が「ファラオじゃぁ~」と言って、みんなで笑ったことが思い出されました。彼にお願いされたから数人で担いだのでしたが、おかげで担いだ私たちが笑顔になれたのでしたっけ。

ずいぶん年月が経った講演会の会場で心がほっこりあたたまったのはアルゴリズムのせいだけじゃない。高崎さん、ありがとう。


最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。