抗精神病薬の長期投与と就労機能

以前、弊ブログで統合失調症をお持ちの方のすべてに無期限で抗精神病薬を投与することについて疑問を呈していたHarrow 氏のグループが、抗精神病薬長期投与と就労についての研究を発表しました。以前の論文について触れた弊ブログはこちらです→

今回の論文では、統合失調症を持つ人への抗精神病薬治療が有意義であるという論拠は3年以内という短期間の観察の結果であると指摘した上で、それ以外の方法による急性医治療の有効性(チオンピ先生やセイックラ先生のアプローチ)にも言及したうえでジョンストンらの急性期治療に薬物治療をしない対象者の方が就労機能は良好であると引用しています。以下は抄録の引用です。

統合失調症患者70例および精神病性の気分障害患者69例の合計139例を対象としてに、20年間に6回経過を観察する追跡調査を行い、抗精神病薬を継続的に処方された対象者の就労機能への影響を、抗精神病薬を処方されていない対象者と統計的手法を用いて比較した。

結果は、急性期入院において統合失調症患者に対する抗精神病薬処方は、多くの患者にとって精神症状の軽減もしくは消失に有効であったが、4年~20年後のフォローアップ期間中には、抗精神病薬を投与されていない群は有意に良好な就労機能を示した。継続的に抗精神病薬を処方された患者は、低い就労機能にとどまっていて、経過による改善は認められなかった。その他の複数の要素が就労機能にネガティヴな関連を示した。

この結果からは、抗精神病薬が長期間投与されていない患者の中に、比較的良好な就労機能を有している患者がいることが示唆された。その他の複数の要素は、退院後の就労パフォーマンスの低さと関連していた。縦断的データからは統合失調症に対する抗精神病薬の長期治療に関して疑問が生じてくる。

就労支援には薬剤減量がよい効果を生じることがあり、中には慎重ではありつつも薬を離脱していかれる方もおられることを経験していますが、研究でもこのことが裏打ちされるものを見つけて勇気づけられる気がしました。アブストラクトだけではなく、内容も読み込んでみたいと思います。

今回の論文:Harrow M, et al. :A 20-Year multi-followup longitudinal study assessing whether antipsychotic medications contribute to work functioning in schizophrenia.Psychiatry Res. 2017 Jun 22;256:267-274
アブストラクトはこちらでご覧になれます→
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28651219


最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。