仮称・IPS援助つき居住

弊法人では、IPS援助付き雇用モデルを意識した就労支援活動をしています。これは、それぞれの人の好みや強みを意識した個別支援と、準備性の評価を極力少なくした、希望される方を排除せうに提供される就労支援サービスです。このようなサービスは、その基盤として「リカバリーを志向する」ことがあげられます。

リカバリーには定まった定義はありませんが、私にとってリカバリーとは、その人が望む場所で、その人らしく生活し、社会に参加し、貢献し、働き、学び、人を愛していく過程をさしているような気がしています。

働くことは人のリカバリーにとり大きな要因ではありますが、すべてではありません。その人の望む場所で暮らす、ということがまず必要なのではないでしょうか。それは「患者さん・利用者さん」として扱われることからの解放や、昼夜の点呼や毎日決まった時間に決まった行動をすることがルール化されている場所から脱出することや、自分のことを自分で決めてよいことや、失敗を恐れずにチャレンジしたり、自分を信じ、夢を胸の奥底に持ち続けて、その情熱に基づいて行動していくことを意味するのではないかとも思います。

住吉病院では、精神障害者アウトリーチ推進事業への参加を契機に、病床削減とともに個別支援の方式を学んできましたが、長期に在院されている方々が退院されるにあたり、個別に住まいを決定していくことの必要性をあらためて感じるようになりました。自宅に戻りたい、そうでなければ住みたいところに住みたいということは自然なことかとも思います。しかし、わが国の「地域移行」という文言は、敷地の外に出ることを意識しているかもしれませんが、精神保健システムの外に出ることについては考えをもたない言葉のように思います。

最初から精神保健福祉法に規定された「施設」やグループホームに退院したいという人がすべてではないはずです。また、そこに退院するためには「病院で」適応的な生活ができていないと準備が不足していると評価されてしまいがちであると思います。これは、かつて就労支援の中で訓練してから障がい者雇用で働くことを唯一のルートとしていた「trainーthenーplace」モデルと同じことなのではないでしょうか。多くの人が「受け皿がない」ことを理由にして退院できなかったり、「日中に精神保健福祉サービスを利用すること」を条件にした支援しか得られないのは、ご本人の選択を制限していることであると思います。入院中の方が退院していきたいという気持ちに沿った支援は、就労支援におけるIPS援助つき雇用の考えと同じようにリカバリー志向であるべきと思います。

重い精神障害を持つ人たちへの支援の中で、私たちは「住むことへの支援」がどのような位置にあるのかを考えた時、「まず住まいを」プログラム=ハウジングファースト、というモデルがあることを先にブログにアップしました。これは、重い精神障害を持つ人たちの住居支援においては、さまざまなタイプの住居プログラムが存在しており、その一つとして「まずは住居を」プログラムが位置付けられていると思います。これを就労支援と同じように位置づけてみると、次のようのことが思い浮かび、勝手に「IPS個別援助つき居住」と名付けました。

※注:以下の「プリンシパル」はなんらかの特定実践の枠組みや、成果のある
※※エビデンスとも関係のない、完全に個人的な考え方によるものです。

仮称・IPS個別援助つき居住のプリンシパル

1.普通のところに住むことに焦点が当てられている

2.住まい探しをいつ始めるのかはクライエントの選択に基づいている

3.精神医療チームと居住サービス「×の統合」→「○の分離」
   (2017.2.1修正)

4.クライエントの好みを尊重する

5.個別の経済的カウンセリング(就労支援も提供できる)

6.迅速な住居探し(病院での適応を条件にしない)

7.系統的な住居開拓

8.無期限の個別フォローアップ支援

IPS援助つき雇用では、就労支援スペシャリストが必要であるとされていますが、居住支援についても、居住支援スペシャリストがいてもいいのではなかと思います。

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。