オープンダイアローグとは何か
- 2016.01.31
- 日記
最近、メンタルヘルス分野である種の流行になっているともいえる「オープンダイアローグ」について学ぼうと思い、入門編ともいえるこの本を読みました。オープンダイアローグはフィンランドの西ラップランド地方にあるケロプダス病院におけるセイックラ氏を中心とするチームが実践する、革命的かつシンプルな新しい精神療法といわれています。
その方法は非指示的で非介入を原則としたミーティングです。精神的困難を持つ人、その人の周りにあるネットワーク圏にいる人たち、ご家族や友人や知り合いや同僚、そして専門家がグループミーティングをする中で、対話を繰り返す。この背景にはミラノ派の家族療法の基礎概念があるようです。
特異なのはその場合目的は対話そのものであり、治癒はその副産物としてもたらされ、1回のみのミーティングで治癒という副産物に恵まれることもあるといいます。この対話のルールで最も大切なのは応答することで、誰の発言に対しても「なかったこと」にはしないことです。その応答は指示的なものであってはならず「開かれた対話」であることが必要とされます。
対話でない語りはモノローグ、独白であり、この中には指示することも含まれます。自由に発言するという意味ではブレーンストーミングはオープンダイアローグに似ていますが、結論を出すことを目的とするため、この点において2者は大きく異なっています。そして、当事者のいない場所では何も決めないという原則があります。
オープンダイアローグの背景についても調べてみました。1984年、フィンランドでは社会福祉制度の構造改革が行われ、社会福祉法を社会サービス開発の基本法として制定しました。それまで施設ケア中心の社会福祉サービスをオープンケアに移行させることを意図したこの改革は”VALTAVA改革”と呼ばれているそうです。その結果、1992年にはメンタルヘルスサービスはオープンケア化が進み、精神科病院ベッド数が半減以上となり、地域で働く職員が倍増したそうです。
「自由に話し合う」というやり方で、お互いの立場を理解して意見の対立を避けるように話をする、というものとはオープンダイアローグは異なっています。対立は不毛な争いにすぎない、ということはこれまでの基盤への疑問を棚上げになってしてしまうのではないでしょうか。メンタルヘルスのサービス分野でみられる、「診断をする人/される人」「鍵・お金・たばこ・私物・自由な時間・私見・意見の表明・自分の人生を自分で決める権利を持つ人/持たない人」という分断をそのままにしていることはオープンダイアローグの本質とは違うような気がします。「議論」とけんかは違うし、「対話」と軋轢を避けて妥協点をさぐることも違うような気がします。対話を通じて、それぞれの参加者の中に何かの変化が起きていく、ということになるのでしょうか。
オープンダイアローグ実践のための12項目というものがあるそうです。
1.ミーティングには2人以上のセラピストが参加する
2.家族とネットワークメンバーが参加する
3.開かれた質問をする
4.クライエントの発言に答える(スルーしない)
5.今この瞬間を大切にする
6.複数の視点を引き出す
7.対話において関係性に注目する
8.問題発言や問題行動には淡々と対応しつつ、その意味には注意を払う
9.症状ではなく、クライエントの独自の言葉や物語を強調する
10.ミーティングにおいて専門家同士の会話を(クライエントの前で)行う=リフレクティング
11.透明性をたもつ
12.不確実性への耐性
今、精神科病院と地域は二項対立に近い状況になっており、互いに相いれないものという認識も少なからずあると思います。同じような対立は地域においても「支援者」と「利用者」の関係性に見られる場合もあります。それらの軋轢を棚上げすることを「対話」だとすることや、意見が違うことを理由にして排除し、「対話」の場には意見が近い人たちしか登れないとすることでは成果は上がらないのではないでしょうか。私はこの本を読んで、オープンダイアローグとは、十分にトレーでニングされた専門家がリードするものですが、それは単なる治療や問題解決の技法ではなく、それぞれの人が、その歴史的に背負っているものも含めた人生を伝え合うことによって新たな化学反応するのだという理念・哲学であると感じました。
わが国のメンタルヘルスの分野でオープンダイアローグの理念を広めていくことは簡単ではないかもしれません。ですが、かつてハンセン氏病をお持ちの方がたが、とうてい不可能と思われた「らい予防法の廃止」のために積み重ねてきた活動、ものごとを決めるときにはご本人抜きでは決めさせない、意見の違う人を切り捨てることをせず分断のスキを与えない、それらは今思えばまさしく「対話」のであったのだとあらためて思いました。
最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。
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