統合失調症がやってきた

かつてTV番組「ボキャブラ天国」で人気のあったお笑いコンビ「松本ハウス」の一人ハウス加賀谷こと加賀谷潤氏の書いた本が話題になっています。当時人気者だったハウス加賀谷内面における苦悩はテレビからはうかがいしることはできませんでしたが、彼は10代の頃から統合失調症を体験し、学校にもいけず、仲間とグループホームで生活しながら精神科に通院して服薬しながらお笑いの仕事をしておられたようです。しかし人気者となってマスメディアへの露出が増えるとともに心身のバランスを崩してしまい大量服用による自殺未遂から閉鎖病棟への入院も体験されました。そして、いつしかハウス加賀谷はテレビでは見かけられなくなってしまいました。

ハウス加賀谷・松本キック著:統合失調症がやってきた。イースト・プレス

加賀谷氏は病状の安定しなかった当時は、一日中、周り中から「お前、臭いよ」と言う声が聞こえ続けたり、ビルの屋上にスナイパーがいて狙われていると感じたりしたそうです。発症していたときは「負の感

情が自分の本当の感情」と決めつけて、自分はだめな人なのだと、内側から自分を差別してあきらめてしまうことがありそうに思いました。そして、今は「正の感情」をもつようにしているのだ、と書かれています。

あとがきでは加賀谷氏は次にように書かれています。

社会の偏見は根深く、なかなかなくならない。だけど、
ぼくは、偏見がなくなることを期待するより、
自分がどう生きるかが大事だと考えてるんだ。

加賀谷氏が自分の人生を自分の手に取り戻すことができたのは、大好きなお笑い芸人として生きていく、という夢と、その夢のために病気も屈することのなかった情熱、そして、それを受け止めて見守り信じ続けてくれたキック松本さんというサポーターの存在あってのことだったのだと思います。

本の中では、ある抗精神病薬との出会いが書かれていますが、それは回復のきっかけになったものですが、夢と情熱とサポーターの存在なくして、薬との良い出会いはなかったであろうと感じました。
統合失調症の体験を持つ方、この病に立ち向かっていこうとしているご家族を持つ人々には必読の書のひとつであるとも思います。統合失調症の症状の始まりや進展の仕方、精神に混乱と苦痛をもたらす症状にはどのようなものがありどういう事が引き金となるのか、どういった薬があってどのような副作用があるのかについても実体験を基にして書いてあります。そして、当初は本人のためを思って無理強いをしていた加賀屋氏のご両親が理解のある方に変わったことはうれしいことでした。

私の同僚の人々と同じような体験を持ちながら、同僚とは人それぞれに異なっている、これまでに私の知らなかったリカバリーの物語に触れて、元気をもらえる一冊でした。

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。