「心のケア」

加藤寛・最相葉月著・講談社現代新書

阪神・淡路大震災における被災者の精神的な支援・治療をを行い、東日本大震災においても陣頭指揮を取った加藤寛先生とインタビュアー最相葉月氏が新書を出されました。さっそく購入して読ませていただきました。
「心のケア」が被災者からは敬遠されること、現地では「こころ」の専門的支援よりも御用聞きであり、必要なことについて情報を提供し、なにより控え目に「そばにいる」ことが大切であることが書かれていました。
被災者だけではなく、ボランティアや支援者、消防や医療関係者にもたらされる心理的な負担を軽減するためには、手助けしようと思ったときに、何もしないで何かあればさっと手を差し出せる体勢だけ整えてそばでじっと待っている、自分たちは何もできない、とその無力を自覚するところがスタート、という考え方の大事さを感じました。
この本ではPTSDが出現してもほとんどの人が自力で回復できることもしっかりと書いてあります。そして、かつて医療の場で行われていた正しいものが実際にはエビデンスがないものであることがわかりました。たとえば、阪神・淡路大震災後に広く行われた心理学的デブリーフィング(Psychological debriefing)ですが、デブリーフィングは1990年代にアメリカで広く普及していたアプローチ法の一つですがその後の研究でデブリーフィングはメタアナリシスで効果が実証されなかったばかりか、場合によってはトラウマを悪化させるという研究結果も出ているということでした。

『おわりに』で加藤先生は次のように書かれました。

心のケアはあまり歓迎されないということです。(中略)受け入れて もらうためには、心のケアを強調しすぎないこと、現実的な支援をしながら地道な関係作りをすると、そして何よりも害を与えないこと、これらの基本的な態度が重要でした。

阪神・淡路の経験を元にし、東日本大震災の実践の上にたった説得力のある本です。「心のケア」にたずさわろうとする者の『善意』や『使命感』だけでは、心に大きく傷つきを得た人をケアできない難しさがあらわされていました。そして、地元の役所や保健所の職員の方々、救援にあたった消防や警察・自衛隊の方々の「心のケア」の必要性については、もっと多くの人に知っていただきたいと思いました。同時に、私の地域でのありように大きな影響を与えてくださった大震災後の神戸の方々を思い、自分の原点を見つめなおすことができました。

兵庫県こころのケアセンターホームページからは、大災害時の心のケアに関するまとめ「サイコロジカル・ファーストエイド」実施の手引き第2版日本語飯が無料でダウンロードできます→http://www.j-hits.org/psychological/pdf/pfa_complete.pdf

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。