IPS援助つき雇用にはエビデンスがない@南ロンドンRCT

北米以外の地区では有効性について疑問を持たれることがあるというIPS援助つき雇用ですが、南ロンドン地区でのRCT(randomised controlled trial:無作為対照試験)の結果が発表されているのに気がつきました。

Howard LM,Heslin M,Morven L.et al.:Supported employment: randomised controlled trial.The British Journal of Psychiatry (2010) 196, 404-411.
290名の重症精神障がいをお持ちの方を無作為にIPSによる介入群と通常治療の群に振り分けて1年間フォローしたというものです。期間内に競争的雇用に至った率をアウトカムとして比較したところ、結果はIPS群13%・通常治療群7%で、P=0.15だったそうです。
この原因としては、筆者らはIPSのフィデリティが低かったこと、たとえば
・いわゆる利益障壁があるため専門職にも当事者にもモチベーションが高まらないこと
・IPSサービスが地域精神保健サービスの中に系統的に組み込まれていないこと に加えて
・競争的雇用を目標に掲げていない場合があること や、
・いわゆる「受動的求職者」をトライアルに含めるかどうかはっきりしていなかった ことについても
 考慮すべきであろう  と述べていました。

周囲の状況により成果が異なるアプローチは、科学的根拠ありとして世に示すことはできないことになるでしょう。私たちは自分たちの実践を示して、そのことによって自分たちのとっているアプローチを信用してもらうことが重要になってくると考えていますので、彼らの出した結果とディスカッションを考慮すると新しいIPSフィデリティで高得点をとれる援助つき雇用を目指すことになるだろう、と思いました。

いずれにしても、必要なのは「あの人の言うことには裏付けによる説得力がある」、とお客さま(この場合はご本人・雇用主さまの双方ということになります)に信頼していただけることだと思います。それは方法が確立している実践を行っている、という場合と、現にその人の実践が周囲の人たちの実践をなんらかの尺度において優れていることが示されている場合になるでしょう。自分たちの日々の実践を振り返って、可能な限りデータを出し、かつまた結果から学んでアプローチ法を今後さらに磨いていきたいと思わせてくれる論文でした。

最後までお読みいただいた方、どうもありがとうございました。